デジタル化でハンコ廃止に山梨県知事の大反論 本当に目指すべき「行政のデジタル化」の本質

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――それでも押印の省略が進めば、ハンコの出番も減ると思われます。印章産業界は今後、どうなるでしょうか。

印章業界の方々には「デジタル化に反対するのはやめましょう」と言っている。デジタル化という時代の本流に抗っても闘えないし、無益な戦いになる。

その代わりに「デジタル化の流れにハンコも乗りましょう」と呼びかけている。ハンコがデジタルの世界でも活躍できる仕組みを作りたい。

押印デバイスを使えば、きれいにデジタル変換できる(撮影:今祥雄)

「押印デバイス」という装置があり、これに押印をするときれいにデジタル変換できる。まだ価格が高いが、廉価版が出れば印章、ハンコがデジタル社会にも参入できる。そのための支援を政府にお願いしている。

押印デバイスは、やり方によってはパスワード代わりになるし、パスワードよりも安全性が高いものになるかもしれない。この点、平井卓也デジタル改革担当大臣も理解を示してくれた。

もう1つが海外市場への進出だ。印章はもとは中国から入ってきた文化で、アジアには印章を普段使いしている国がまだ数多くある。そういう地域に日本の優れた技術で作られた印章を売り込みたい。

インバウンド需要も考えられる。中国人観光客に「ハンコの里」と呼ばれる山梨県の印章産業地を回ってもらいたい。習近平国家主席の来日が実現する時には、山梨県産の印章をプレゼントしたい。そうすると、日本でも「中国国家主席御用達」というふれこみで良質な印章を販売できるだろう。

既得権益は本当に巨大なのか

――印章産業界の動きを、既得権益を守るための運動とする見方もあります。

この産業で仕事をし、収入を得てきた人たちが自分たちの生活手段を守ろうとする動きがそんなにおかしなことだろうか。正当防衛だ。

仮に印章産業の既得権益なるものがあるとして、それは目くじらを立てるほど巨大なものなのか。山梨の印章産業に関わる人々は「息子には継がせることができない」「私の代で終わりだ」という人ばかり。そんな状況下にある産業の規模が、皆さんが声を大にして批判するほどの権益を持っているのかどうか、よく考えてもらいたい。

改革を進める時は必ず血を流す人が出る。そこへの配慮が欠けていては改革そのものが進まなくなる。配慮をすることで改革が進む。叩きやすい悪を見つけて切り捨てるようなパフォーマンスは止めてもらいたい。もう少し思いやりをもってほしいとお願いしている。

野中 大樹 東洋経済 記者

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のなか だいき / Daiki Nonaka

熊本県生まれ。週刊誌記者を経て2018年に東洋経済新報社入社。週刊東洋経済編集部。

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