デジタル化でハンコ廃止に山梨県知事の大反論

本当に目指すべき「行政のデジタル化」の本質

――ハンコを廃止しなくても、不必要な押印を1つひとつ省略していけばデジタル化は進んでいくということでしょうか。

山梨県庁では今、どの押印は残すべきか、どこからが不要なのか、職員たちと大議論をしている。抵抗を覚える人もいるが、例えば毎日の出勤簿に押印は要らないだろう。こういうナンセンスな押印慣行はなくしたほうがいい。

ながさき・こうたろう/1968年生まれ、東京都出身。1991年、東京大学法学部卒業、大蔵省(現財務省)入省。在ロサンゼルス総領事館領事、財務省主計局地方財政係主計官補佐などを経て2005年に退官。同年、衆院山梨2区より南関東比例代表にて初当選。2019年の山梨県知事選で当選、現在に至る(撮影:今祥雄)

では、結婚や離婚の押印はどうか。法務大臣は婚姻届や離婚届の押印も省略する意向を表明したが、結婚や離婚はほとんどの人にとって人生に一度か二度のこと。日常的に押印するわけではない。私は、人生の節目でもあるのだから省略しなくていいと思う。こういうふうに1つひとつを精査していけばいい。

個人レベルでもできることはある。私も知事の仕事で不要な押印は省略するようにしている。条例の公布は県知事がサインするが、それとは別に決裁用紙がくっついていて、慣行でここにも押印をしなくてはならなかった。しかし、条例文の本体に自署でサインをすれば私が認めたことを意味するのだから、形式を整えるためだけの押印は不要だ。だから省略した。いわば「ひとりDX」をやっている。

民間企業でも省略できるものは各々で判断して省略していけばいい。契約をかわす時、現行の民法は押印が必要であるとは定めていない。押印する慣習が残っているが、すべてビジネス上の慣行であり、義務ではない。

「ハンコ警察」登場への懸念

――慣行や慣習を変えていけば、デジタル化を進められるのに「ハンコがデジタル化を阻害している」と誤解されているのですね。

残念ながら「脱ハンコ」「ハンコ廃止」という言葉はテンポがよく、キャッチーだ。それゆえに政権がデジタル化を進めていることを表すキャッチフレーズになってしまったが、少し安易すぎるのではないか。

新型コロナ禍では、自粛せずに外出する人を叩く「自粛警察」が生まれた。そういう土壌では、ややもすればハンコを造り、ハンコを使う人がいないかを監視する「ハンコ警察」が生まれやしないかと、半ば冗談だが、半分本気で心配している。「あの企業はいまだにハンコを使っている」と言われる日がくるかもしれない。

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