フランス「男性の育休取得」に本気になった背景 2021年7月からは最大で1カ月の取得が可能に

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女性の労働市場への参加は、より広い「女性解放のアジェンダ」の1つという位置づけなのだ。これには、後に「リプロダクティブライツ(日本では定訳はないが、性と生殖に関する権利と訳されることが多い)」と呼ばれることになる自分の体をコントロールする権利なども含まれる(中絶の合法化、その後の全額払い戻し、ピルへのアクセス、モーニングアフターピルそして堕胎薬など)。

男性を育児にもっと関与させることで、カップルとして、女性は男性と同じくらい自由になることができる。例えば、筆者のパートナーは日本人女性だが、フルタイムで働きながら、16、12、8歳の3人の子どもを育てている。彼女に家庭と仕事の両立について話を聞いたところ、こんな答えが返ってきた。

「私とあなたは、家で子どもたちとだいたい同じくらいの時間を過ごしている。あなたも、私も料理、洗濯、ゴミ捨て、その他の家事を平等にしている。そうでなければ、私は家族とキャリアの両方を追うことができなかった。日本人男性でそれだけの協力を得るのはかなり難しいと思う」

フランス人の母親は祖父母の助けも期待できる。フランスでは、多くの人が63歳前後で通常は老後生活に十分な年金を得て退職し、孫と過ごす自由な時間がある。筆者は東京に住んでいるが、毎年夏になると子どもたちはフランスを訪れ、私の両親と1.5〜2カ月ほどともに過ごす。

子どもたちと離れ離れになるのは、私とパートナーにとってかなり感情的な努力が必要だ。だが、この努力は、私たちが仕事で得られる自由な時間と、子どもたちにとって不利益になることなく、孫と祖父母がお互いに楽しい時間を分かち合うことによって報われる。

日本でも「ともに自由を」となるか

一方、政府統計によると、日本での男性による育休取得率は7%にとどまっている(2019年)。明治安田生命が先ごろ発表した調査は少し数字が異なるが、1日でも育休をとった男性の比率は今年26.3%と前年から約10ポイントもアップ。平均取得日数も7日と、前年の4日から大きく伸びた。背景には新型コロナウイルス拡大予防のために、テレワークが広がったことがあるとみられている。

菅首相も男性の育休取得の拡大に意欲的で、10月15日に開かれた全世代型社会保障検討会議では、産後に男性の育休取得を推進する制度の導入を検討することを明らかにしている。

フランスでは政府支援を受け、夫婦がスケジュールを調整することにより、男女ともに仕事と子育てをうまくやりくりすることができるようになってきた。まさにフランス人作家、作家フランソワ・ド・シングリーが言ったように、「ともに自由を」の精神だ。日本にもはたしてこうした意識は根付くのか。マクロン大統領のようなリーダーシップが、菅首相にも求められるところだ。

レジス・アルノー 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

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Régis Arnaud

ジャーナリスト。フランスの日刊紙ル・フィガロ、週刊経済誌『シャランジュ』の東京特派員、日仏語ビジネス誌『フランス・ジャポン・エコー』の編集長を務めるほか、阿波踊りパリのプロデュースも手掛ける。小説『Tokyo c’est fini』(1996年)の著者。近著に『誰も知らないカルロス・ゴーンの真実』(2020年)がある。

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