フランス「男性の育休取得」に本気になった背景 2021年7月からは最大で1カ月の取得が可能に

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マクロン大統領は自身の就任期間中の政策目標の1つとして、男女平等の推進を掲げていることもあって今回、男性の育休取得拡大に踏み切ったとみられる。もっとも、これは男性と女性が家庭と職場、双方で豊かな生活を送れるよう、それぞれの役割も平等にするためのフランスにおける10年にわたる取り組みの一環でもある。

例えば、家事分担の意識は夫婦間で当たり前になりつつある。OECDによると、フランスと日本では、女性は毎日224分間、同じように「無給の家庭内労働」に費やしているが、男性にかぎれば、フランス人が134分間なのに対して、日本人は40分間にすぎない。つまり、フランス人男性は、日本人男性が1週間に行う家事労働を、2日で行っていることになる。

ちなみに、OECD加盟国全体でも、日本人男性は最も家事労働をしない部類に入っている。菅首相はそのよい例かもしれない。最近の『文藝春秋』とのインタビューで、菅首相はここ5、6年間、家で一晩も過ごしていないことを否定していない。

フランスでは、女性による社会進出を後押しする一方、男性をより家事に巻き込む試みが何十年も前から行われてきた。今やフランス人の親は、息子を料理やオムツ替えができるように、娘をキャリアと母であることの両方を追求することを当然のこととして主張する強さを持てるように育てなければいけない。

家政婦の有無も大きな違い

フランスでは、女性が子どもを産むときに頼れるのは夫だけではない。家政婦の助けも期待できる。家政婦の多くは外国人で、適正なビザ政策を通じてフランスへの入国を許可され、給与の一部が政府によってまかなわれていることさえある。

対して日本は外国人家政婦の受け入れにいまだ後ろ向きだ。自民党の野田聖子議員はこう言う。「日本でも外国人労働者を受け入れるさまざまなシステムがあり、私は家政婦やベビーシッターについても同じシステムが必要だと主張してきた。が、私の周りは依然90%が保守的な男性で占められており、女性が家事をしないのはいかがなものか、という彼らのいわば感情論で議論が滞っている」。

働くこと、そして子どもを持つことに関してもフランス政府と日本政府の哲学は異なる。日本では企業や家庭の利益のために女性が労働市場へ参加することが大事だとされているが、フランスでは歴史的に女性が家庭外で働くことは、両親や夫の束縛から逃れる手段とされてきた。

「1970年代、フランスの女性は仕事よりも自由を求めていた。そしていい仕事に就くことによって、生計を立てるために男性に頼る必要はなくなった。これにより、たとえば家族や夫に縛られる関係から抜け出すことができた」と、フランスの社会学者で元上智大学教授のミューリエル・ジョリヴェ氏は説明する。

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