しかし今年は、パリはからっぽでした! 普段は街中で見かける中国人、アメリカ人、ドイツ人など海外からの観光客の姿はどこにも見えませんでした。もちろん、ホテル業界――とくに高級ホテル――には悲劇的でした。いくつかのホテルは改装を終えて公式に「パレス」として認められたばかりだったのです。
ルーヴル美術館、ヴェルサイユ宮殿、エッフェル塔(昨年同時期に比べ訪問者数が3分1以下となっています)、凱旋門……といった誰もが知っているパリの名所も、今年は訪れる人の数が激減し、静まりかえっています。
パリジャンたちは地方を目指した
一方、フランスのいくつかの地方は、海外に行けなくなったフランス人観光客の間で非常に人気を博しました。かの有名なモンサンミッシェルは、昨年の訪問者数の8割をフランス人だけで達成しました。ただ、お土産を買ってくれる日本人観光客の存在なしには、地域の産業が生き残るのはなかなか難しいものがあります。フランス人にはあまりお土産を購入する習慣がないのです。
フランス国内の親戚や友人を訪ねる人も少なくありませんでした。フランスでは親戚を家に招くことはよくあることです。感染リスクを下げるために、ホテルに滞在するより一軒家を借りたほうがいい、という人も非常に多く、エアビーアンドビーの需要も高かったようです。とくにプール付きの家が好まれました。
今夏、もう1つ人気だったのが、「ホームエクスチェンジ」です。キャメロン・ディアスとケイト・ウィンスレット主演の映画『ホリデイ』を見た人は知っているかもしれませんが、ホームエクスチェンジとは文字どおりお互いがお互いの家を交換して一定期間滞在すること。家を「交換」するため、お金がかからないので、現在のような経済危機の時期にはとてもいいアイデアです。
このホームエクスチェンジの行き先として人気だったのが、プロヴァンスやブルターニュ、ヌーヴェル=アキテーヌなど。つねに人気の南フランス(コート・ダジュール)はフランス人観光客で過密状態でした。
銀行員のマルクは、妻と3人の子どもと共にタイで3週間過ごす休暇を計画していましたが、旅行の中止を余儀なくされました。代わりに、マルクはフランスのコルシカ島を探検することに決め、家族全員とても楽しみました。
教師のローランスは、夫と子どもと共にフランス中部のオーヴェルニュ地方に出かけ、先史時代の洞窟巡りや(暑さのためとても人気)、ハイキング、カヌーカヤックに興じました。彼女はいつもなら3週間の休暇をアメリカなどヨーロッパの外で過ごしますが、今回は世界最古の先史時代(紀元前4万年)の洞窟、ユネスコ世界遺産のショーヴェ洞窟を家族で訪れました。
こうした狭い地域での多様性は、フランスの地方都市の魅力の1つです。こうした場所、とくに普段は大自然が有名な場所は観光インフラが整っていないことが多く、今夏は予約でパンク状態だったようですが、多くのスタッフは再び仕事ができることを喜び、普段より接客が丁寧だったとか。ご存じのとおり、フランス人のウエイトスタッフは態度がよくないときがありますが、多くが顧客を満足させる姿勢を見せていたようです。
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