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「人前で泣くリーダー」が経営学の世界最先端だ 日本人はなぜ「ベニオフCEO」になれないのか?

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  • 入山 章栄 早稲田大学ビジネススクール教授
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監視が前提での「社会善」の行動が促されているわけです。私から見れば息苦しそうですが、でも、大多数の中国の国民にとっては、豊かさに向かって国が成長している限り「今はよい社会」であり、国民は政府のやり方を受け入れているように見えます。

それに対して欧米や日本などの先進国は、今後は国がさらに急激に豊かになることは望めません。一党独裁体制でもないので、個人の権利がよくも悪くも守られており、データや個人行動の監視も十分には制御できません。だからこそ、何が社会善であるかを一人ひとりが考えて、民間企業も一社一社が責任を持つ必要があるのです。

そうした資本主義・民主主義社会における現代の1つの回答を体現している会社が、セールスフォースなのでしょう。

その一方で、同社も今は上り調子で全部がうまく回っているからこそ、社会善を打ち出しやすいのも事実のはずです。仮にセールスフォースの成長が止まり、ビジネスが逆回転し始めたときにでも、現状の社会善の活動を持続できるのかは興味深いところです。

日本企業への示唆

最後になりますが、先ほどもトヨタの豊田章男社長の話を挙げましたが、ベニオフ氏の考え方は、日本人とすごく調和するところがありそうです。本書でも日本が大好きだと語り、最初に買ったのがトヨタ車で、トヨタ自動車の豊田社長に会えるのを喜び、京都に行って禅を経験するなど、日本へのリスペクトが随所で見られます。

家族主義的な経営、三方よしのような利他主義など、日本企業がもともと持っていた考え方に、ベニオフ氏が共感を示していることは、これからの時代にも価値がある証で、日本人に勇気を与えてくれます。

それと同時に、日本企業はこのよさを生かしながら世界でイノベーション企業として展開していくことに、3周くらい遅れていることも痛感させられます。とくに、デジタル化、グローバル化、ダイバーシティでは、日本企業は圧倒的に遅れています。女性の社会参加は足りず、外国人社員も少なく、移民の数も少ないし、サポートも乏しいです。

企業のSDGsへの取り組みやステークホルダーへの還元も、本気で取り組んでいるかというと、疑問符が残ります。たとえ「三方よし」などの思想があっても、それを生かし切れていないのです。

ベニオフ氏はこれほど日本を愛しているのに、日本企業はなぜベニオフ氏が目指す企業のようになれないのか。これを考えてみることは非常に重要ですし、私自身、さまざまな経営者の方々と話し合ってみたくも思います。

バリューベースへの感度には、世代間の差もあるはずです。何が正解というわけではないですが、この本を読んでどう感じるのかは、ある種のリトマス試験紙といえるのかもしれません。未来系企業のあり方や、自分が今後どう行動するかを考えるうえでも、ぜひ多くの人に読んでいただきたい1冊ですね。

(構成:渡部典子)

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