「人前で泣くリーダー」が経営学の世界最先端だ 日本人はなぜ「ベニオフCEO」になれないのか?
先日、日本のセールスフォースの社員の方に「御社はまるで宗教みたいですね」と冗談交じりに話したら、「そのとおりです」と笑って答えていました。それだけ社員がバリューに共感し、センスメイキングもできているので、全員がリーダーとして振る舞えるような「シェアード・リーダーシップ」が同社では実現するのでしょう。
この実現には、全員で価値観を共有することが必要になってきます。これからの革新的で世界を変えられる会社は、こういう会社だと思います。重要なのはバリューへの共鳴。もはや「理屈の時代は終わった」ともいえるかもしれません。
「社会善」のために本気で行動する
本書によると、セールスフォースでは多様なステークホルダーを大事にしています。資本主義を掲げ、株主第一主義で、時価総額を高めようと突っ走ってきた多くのアメリカ企業に対して、これも新しい考え方といえるでしょう。
私の理解ではアメリカで1980年代から機関投資家の登場とともに、株主第一主義が強まりました。機関投資家は年金の運用などをするので、リターンを出さないといけません。そこで株主がいちばん重要なステークホルダーであり、株主にリターンを出すことがCEOの最大の役割だとする考え方が出てきました。
ところが、そこからいきすぎも生じ、今のように多様なステークホルダーがいる時代に、この考えは合わなくなってきている可能性があります。だからこそ、アメリカ大手企業のCEOが参加する「ビジネス・ラウンドテーブル」が去年の秋に、株主至上主義を見直し、さまざまなステークホルダーのことを考えるべきだという趣旨の発言をしたのです。
ユニリーバやネスレなど一部の欧州企業のほうが、むしろこのあたりの意識の高さでよく知られています。一方の日本企業は、もともと「三方よし」など、多様なステークホルダーを意識する歴史があった。しかし残念なのは、今の日本企業ではその価値に気づいていないところも多い。非常にもったいないところです。
そう考えると、むしろ株主しか重視しない今のアメリカ企業は「後進」とさえいえるかもしれませんね。その中で、セールスフォースはアメリカの中では圧倒的に先に行っている会社ですね。
それと関連して、本書の「アクティビストCEO――企業が本気で社会を変える」という章が興味深く感じました。会社と政府との関わりを取り上げた章です。
バリューベースの会社にとって、「社会善」は重要なテーマとなります。一部では売り上げや時価総額が国家のGDPを超えるほど企業の力が強くなっている中で、以前のように自社を利するための「政商」的な関与ではなく、経営者が社会的責任をもって政治に対して発言し、関与する動きが出てきています。
本書で紹介されるエピソードからは、こうしたベニオフさんの数々の行動が心から行われていることが伝わってきます。
「何を社会善とするか」については、アメリカと中国でアプローチがまったく異なります。実は中国では今、(役人は除き)国民や民間企業が不正のできない社会となっています。というのも、政府がIT技術を駆使して国民の行動を監視することで、国民が社会に迷惑をかけるような行動をとったら、すぐにばれる状況になっているからです。
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