「人前で泣くリーダー」が経営学の世界最先端だ 日本人はなぜ「ベニオフCEO」になれないのか?

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セールスフォースはバリューを非常に大事にして組織をドライブしているという点で、「バリューベース時代」の先駆けの企業だと思います。ここまで本気で体現している会社は、世界でもほとんどないはずです。その意味で、この本の内容はまさに最先端であると思うのです。

未来のリーダーは、オーセンティックであるべき

この本の中でもう1つ印象的だったのが、創業経営者のマーク・ベニオフ氏が失敗して反省しているエピソードが何度も何度も出てくることです。素晴らしいですよね。

一般に、ビジネスリーダーの多くは、部下から「あなたは間違っている」と指摘されたとき、なかなかそれを素直に受け止められません。その後で「やはり自分は正しかった」と論じるリーダーの話が書かれた本のほうが、世の中には圧倒的に多いことでしょう。

でも、逆にこの本は、これだけの企業を作ったベニオフが、「自分が間違っていた」と何度も認めて、軌道修正するリーダー像に新しさを感じました。

このように自分らしく、ありのままの姿をさらけ出すリーダー像を経営学では「オーセンティック・リーダーシップ」と呼びます。これからの時代に一層求められるもののはずです。

というのは、バリューを大事にする会社では、社員全員が価値観に共鳴しているので、CEOが価値観にそぐわない行動をすれば、苦言を呈することもありうるからです。本書に書かれているように、まさにセールスフォースで起きたことですね。

以前であれば声をあげられなかった社員でも、今はSNSなどさまざまな形でつながっているので、CEOに直接文句が言えるのです。

ここで、バリューに素直になって、自分の非を認めて謝ることのできるオーセンティックなリーダーは、従業員からも支持されるでしょう。未来的なリーダーのあり方です。

入山教授が監訳した、日本でも最も注目されるイノベーション理論の初の解説書『両利きの経営――「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』。2020年度のビジネス書大賞特別賞を受賞(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら

ベニオフさんもそうです。彼は自分と自社のバリューを信じて動いています。バリューにそぐわないことをして間違ったら、「ごめん」と謝って泣いて、率直に改める。これからの時代は、こんな人前で泣くことすらできるリーダーが求められているのでしょう。

もしかしたら、本書でベニオフさんが豊田章男さんに共感しているのは、2010年のトヨタ自動車のリコール問題で、豊田さんが涙したことがあったからかもしれませんね。

バリューベースの背景にあるのが、私が「腹落ちの理論」と呼んでいる「センスメイキング」という考え方です。これは、私の『世界標準の経営理論』でも、イノベーション理論である「両利きの経営」と並んで反響の大きかった理論です。

人は会社のバリューに共感し、腹落ちもしているときに、それらが本気の行動につながっていきます。セールスフォースの場合、V2MOM(ビジョン、バリュー、手法、障害物、評価基準)という行動規範のフレームワークが、腹落ちさせる仕組みの1つといえます。

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