「人前で泣くリーダー」が経営学の世界最先端だ 日本人はなぜ「ベニオフCEO」になれないのか?

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例えば、マスクさんは「このままでは人類は地球に住めなくなる、だから火星に人類を移住させよう」という壮大なビジョンを持って、スペースXを経営している。そのビジョンに共感した人が同社に集まってくるわけです。

こういったリーダーは会社として世の中を変えて、新しいイノベーションを起こすことで収益を獲得しようとする考え方を打ち出しています。

そして今、より最先端の企業では、ビジョンを超えて、「バリュー」をより重視する時代になってきているといえるかもしれません。

ビジョンが「未来を変えよう」といった「動詞型」であるのに対し、バリューは「私たちはこうありたい」「こういう考え方・価値観がいい」という、「形容詞」に近いイメージ、と私は理解しています。

これは、ビジョンが重要でなくなったという意味ではありません。とくに、旧来の日本企業ではビジョンが明確ではないところがいまだに多いので、会社の意思が弱く、結果としてイノベーションが生み出せていないからです。ビジョンは引き続き重要です。

私が言いたいのは、未来へのビジョンもバリューも明確にしつつも、より相対的にバリューを重視する会社が出てきているということです。その代表が、セールスフォースです。

ネットワークでつながるための求心力

日本でも、今後は終身雇用・新卒一括雇用が崩壊していき、人材の流動性はますます高まることは疑いありません。そこで新しく働く先を選ぶときに重要なのは、「お金」「バリュー・価値観」「ビジョン」「自分の成長」という4つの要素だと私は理解しています。

入山章栄(いりやま あきえ)/早稲田大学ビジネススクール教授。1972年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所でコンサルティング業務に従事した後、2008年ピッツバーグ大学経営大学院でPh.D.を取得。ニューヨーク州立大学バッファー校ビジネススクールのアシスタントプロフェッサーなどを経て、2019年より現職(撮影:鈴木愛子)

そして、若くて優秀な人ほどビジョンやバリューを重視する傾向があります。なかでも、若い人はバリュー重視の人が多い印象です。

この理由は、若い人は全員が「未来でこれを変えたい」という強烈な思いを持ち合わせているとは限らないからです。若いうちは人との出会いも経験も乏しいですから、共鳴するビジョンもなかなか見つかりません。それよりも、自分と同じ感覚を持ち、バリューに共鳴できる仲間とまずは働きたいと思うからです。

人と人のつながり方や組織構造が変わってきたことも、このバリューベースの流れを後押ししているはずです。頭の中で図を描いてイメージしてほしいのですが、ビジョンの強い企業は中央集権的な構造をとります。

例えば、テスラはイーロン・マスクさんと彼の強烈な未来へのビジョンを中心とし、そこに共鳴した人が集まる。マスクさんを中心にして、放射状に個人がぶら下がっているイメージです。

これに対して、人の流動性がさらに高まった時代には、組織の内外を超えて、さまざまな人が横でつながっていくでしょう。その場合、ネットワークの中心はなくなっていきます。代わりに、つながりを保つために、ネットワークのメンバー全体が共有するバリューが必要になってくるのです。

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