それでも撤退した百貨店の立地を見れば、その背後に高速バスの影響をうかがい知ることができる。8月に「井筒屋」が撤退した北九州市の黒崎は、小倉や博多までのJRの在来線も便利だが、郊外からは九州最大の繁華街、福岡・天神への高速バスが頻発している。
九州では「福岡ひとり勝ち」の状況が続いているが、その背景には西鉄を中心にバス王国が築かれ、九州の主要都市がほぼすべて福岡・天神と安価で便利な高速バスで結ばれていることが大きいと思われる。
買い物客の“逆転現象”が起きた木更津
東京湾アクアラインが開通した3年後の2000年に「そごう」が撤退した木更津では、その店舗跡にさまざまな商業施設が入っては撤退するというサイクルを繰り返し、駅前の一等地にあるショッピングビルは、現在も公共施設を除けば空き家に等しい状態のままになっている。
木更津の駅前からは、東京・新宿・渋谷・品川・川崎・横浜の各駅などに1日200便ほど(平日ベース)のバスがアクアラインを渡って向かっており、木更津駅前の百貨店がなくても困らない。
皮肉なことに、アクアラインの東側の玄関となる木更津金田インターチェンジ近くにある「三井アウトレットパーク木更津」には、東京駅や新宿駅、たまプラーザ駅、相模大野駅などからの直行高速バスが多数運行されており、木更津市民は京浜地区へ買い物に、逆に京浜地区の買い物客が木更津のアウトレットに買い物に来ていることが、高速バスの充実ぶりから伝わってくる。
同様の“逆転現象”は、九州でも見られる。佐賀市の中心部に立地する老舗百貨店「玉屋」が苦戦している一方で、西日本各地にショッピングモールを展開するイズミが運営する「ゆめタウン佐賀」が、長崎道を利用して佐世保市や久留米市など県外からやってくる買い物客でにぎわい、ゆめタウン全102店でトップの来店客数を誇っている。
地域全体からすれば、高速道路の利害はプラスもマイナスもあるように見えるが、地元の百貨店の衰退と県外資本による大型店の隆盛が、果たして地域の持続的な発展につながるのかどうかは、長期的な視点で見極める必要があろう。
便利で快適な高速道路は、開通前の期待とは裏腹なストロー効果を各地に現出させている。百貨店の撤退はやむをえない時代の流れなのか、それによって街自体の求心力が失われるとすれば、それに代わるものを高速道路はもたらしてくれるのか、ほぼ全国に高速道路がいきわたりつつある今、あらためてそのことを考えさせられる。
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