映画「テネット」アメリカでコケた予想外の事情 日本では大ヒットも「興行収入赤字はほぼ決定」

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ライバルで世界最大手のAMCは、シネワールドの動きを受けて、「自分たちはこのまま経営を続ける」と発表した。しかし、多額の負債がある彼らも、相当に危うい。もちろん、小さな映画館も脅威にさらされている。

先月末、全米劇場所有者協会(NATO)は、政治家に手紙を送り、「この状況が続けば、69%の小規模および中規模の映画館が倒産を強いられる」と、持続過給付金などの援助を要請した。一方で、ウォール街のアナリストであるエリック・ウォールドは、「完璧な環境が整うまで待ちたいという気持ちはわかるが、興行ビジネスが崩壊してしまわないために、赤字覚悟で新作を提供するべき」と、助け舟を出すべきなのはスタジオだと主張する。

シネワールドのグレイディンガーも、再び彼が映画館のドアを開けるには、「1本だけではだめ」で、「その後にも新作がどんどん控えていて、スタジオが『もう映画館に行っても大丈夫ですよ。だから私たちはこんな作品を提供します』と観客に言ってくれる状況」が必要だと語っている。

窮地に立たされたアメリカ映画業界

映画館が潰れてしまえば、スタジオは、作品を上映するにも箱がなくなる。映画館はビジネス上の重要なパートナーであり、長期的に見れば、彼らを助けることは自分たちのためにもなる。とは言っても、大事な映画を、わざわざ損する状況で出したくない。スタジオだって、今はお金を失い、レイオフをしているところなのだ。失敗が続けば株価にも影響する。

アメリカの映画館の未来は、今、そんなジレンマに大きく揺さぶられている。コロナが落ち着いてくれるのが一番だが、その気配は一向に見られない。ようやくこのウイルスに打ち勝った時、どれだけの映画館が生き残っているのか。ロックダウンから半年以上が経つ中、先行きはますます暗くなっている。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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