日本人の「移民嫌い」は菅政権下でマシになるか 観光客も永住者も移民も「外国人」とひとくくり

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「ベトナム人の男性に『もし君が日本人だったら、雇用主は救急車を呼んでいたと思うか』と聞いたら、しばらく押し黙ったのちに『おそらく……だけど、私は中小企業の経営者を責めることは絶対にできない。悪いのは彼らではなく、日本の移民制度だと思う』と話していた」(鳥井氏)

日本に帰化するハードルも依然高い。安倍政権の7年間で日本人として帰化できたのはわずか6万4788人だけで、そのうち中国および韓国以外の国からの帰化は1万853人に過ぎない。フランスでは同期間に77万2563人が帰化している。2019年だけでも、日本で7年間に帰化した累計数の2倍に上る人がフランスに帰化している。

外国人との「共生」進む浜松市

日本の人口の将来を知るための出発点としては、浜松の状況を見るのが最適である。日本の高度成長期に自動車工場が大きく発展したこの工業地帯では、人手不足を補うために、1990年代に移民の受け入れに舵を切った。移民は主に南アメリカからで、一世紀前に自らの命運をかけて南アメリカの地に渡った日本人開拓者の子孫たちだった。

今日、浜松の人口の約4.4%が外国人である。市自体も外国人との共生に積極的で、個別指導や日本語の語学コースを設けているほか、行政手続き(健康保険、退職年金など)を支援したり、自然災害への意識を高める活動も行っている。市はこのほか、地域の外国人の子どもが日本人と同じ水準の教育を受けられる環境の促進や支援にも熱心だ。

行政だけでなく、中小さまざまな規模の団体も外国人の居住や労働支援を行っている。例えば、浜松国際協力協会では、雇用や退職後の生活から日常生活に関する悩みなどについても相談に応じている。

同市に住むフランス人コンサルタントのオリヴィエ・ルメール氏は、「ここは外国人にとっても非常に住みやすい」と話す。同氏が地元の中小企業の要請で行った外国人の居住環境に関する調査では、「(この界隈に住む)90%の外国人が現在の環境に満足しているほか、大方の日本人が外国人移住者は地域にポジティブな影響を与えていると回答している」(ルメール氏)という。

「2019年は1日に4人の視察団を迎えた」と、浜松市役所国際課の担当者は笑みを浮かべて語った。浜松市の事例は、外国人が日本の社会に溶け込む方法について話し合ういいきっかけになるかもしれない。

レジス・アルノー 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

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Régis Arnaud

ジャーナリスト。フランスの日刊紙ル・フィガロ、週刊経済誌『シャランジュ』の東京特派員、日仏語ビジネス誌『フランス・ジャポン・エコー』の編集長を務めるほか、阿波踊りパリのプロデュースも手掛ける。小説『Tokyo c’est fini』(1996年)の著者。近著に『誰も知らないカルロス・ゴーンの真実』(2020年)がある。

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