ホンダF1撤退に見たフェラーリとの決定的な差 ビジネスモデルによって異なるF1参戦の重要度

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一方、長年にわたりF1界の中核にあり、継続的に参戦しているフェラーリの場合、企業組織におけるF1の位置付けがホンダとは大きく違う。以前、フェラーリ本社で「トライアングル事業構想」について詳しく聞いたことがある。

フェラーリという企業の経営において、出口戦略は量産スーパーカーの安定的な製造・販売だ。そのために、基本的な企業イメージを創出するF1ワークス活動が必然となる。さらに、ロゴの使用権やオフィシャルグッズショップ展開など扱う、ライセンス事業でのマネタイズを行う。これら3つが相互補完する、トライアングルのような関係性を重要視しているという。

つまり、仮にフェラーリが量産車の電動化パワートレインの開発に注力するためF1をやめてしまうと、フェラーリというビジネスモデル自体が成立しなくなる。だから、フェラーリはF1を続けるという単純明快な図式である。

今、生き残りをかけた分岐点にある

一方で、大衆層(マスマーケット)向けの自動車ブランドにとって、モータースポーツのワークス活動は必然ではなく、中短期的な事業計画における1事業、またはモデル毎のブランドイメージ効果を考慮したものにすぎない。

直近でのモデル別の事例では、トヨタでは「GRヤリス」が世界ラリー選手権(WRC)に、日産「GT-R」がSUPER GTに参戦している。さらにブランドとしては、スバルSTIが、ニュルブルクリンク24時間レースにチャレンジしている。

SUPER GTに参戦する日産「GT-R」(写真:日産自動車)

だが、ホンダは違う。「モータースポーツはホンダのDNA」という言葉に誇張や演出はない。F1喪失は、ホンダという企業全体に大きな影響を及ぼす。それを十分承知のうえで、今回の決断に及ばなければならないほど、ホンダを含めた自動車メーカー各社は、今後の生き残りをかけた分岐点に立っているのだ。

八郷社長がF1参戦終了の検討を始めたのは、2019年11月にエンジン供給を行うレッドブルとトロロッソ(現アルファタウリ)に対して契約期間を、当初の2020年から2021年まで1年延長を決めた頃からだと会見で述べている。チーム側には8月に伝えて、9月末に正式決定したという。

ホンダがF1から去る。自動車産業における、ひとつの時代が終わる。 

桃田 健史 ジャーナリスト

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ももた けんじ / Kenji Momota

桐蔭学園中学校・高等学校、東海大学工学部動力機械工学科卒業。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

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