なんでも「正解」が欲しい日本人に足りない視点 オックスフォード大学式チュートリアルとは

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この思考のプロセスを繰り返すうちに、私は「理解や答えはある日、突然湧き出てくるものではない」ということに気がつきました。ひらめきが何千回、何万回もの地道な情報収集と試行錯誤の末にやってくるのと同じで、「考える」作業も、成功体験を一つひとつ積み重ねていくことで、新しい答えやオリジナルな答えに到達します。つまり、「理解する」ということは、思考と洞察の「積み上げ」によってもたらされるのです。

かつてアインシュタインは、「大切なのは、疑問を持ち続けることだ。神聖な好奇心を失ってはならない」と言いました。彼の言うように、この変化の激しい時代において力になるのは、疑問や好奇心を通じて自分自身への理解を深めることであり、同時に、他者と意見を交わしながら、丁寧に目の前の課題に対して向き合っていくプロセスです。

オックスフォードでの体験によって、私は答えのない課題に向き合うための「メンタリティー」と「考え方の軸」を構築することができました。とはいえ、現在学校に通っていない方は普段の生活や仕事をしていく中で、自分自身でどのように課題に向き合っていけばいいか、理解を深めていけばいいか、イメージしにくいかもしれませんね。

答えがないときに大事な3つの問いかけ

答えがないように見えるときこそ、次の3つの「問いかけ」を行い、目の前の課題を整理してみてください。

①「何が問題なのか?」
②「これまでに何が明らかになっているのか?」
③「どのような選択肢・対策がいいのか?」

オックスフォードを卒業して数年後、私は国連で東ティモールや南スーダンといった民族や宗教が複雑に絡み合う「予測不可能」な紛争の現場で働くことになるのですが、そこでこの力が助けになるとは、まだ夢にも思いませんでした。これらは、現在コーチングのプロとして活動する中でも、つねに念頭に置いている思考のステップです。

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一見複雑に見える出来事や新しいテーマであっても、自ら調べ、一つひとつわかる範囲が増えていき、自分の中での理解が深まっていくにつれ、これまではわからなかったことが確実にわかるようになっていきます。

この3つの問いを繰り返しながら、知識と理解を積み上げていくと、一見難しいことに対しても自分で必要な「答え」がわかり、自ら判断できるようになっていきます。自分で答えを導き出し、「わかっていく」体験は、確実に自信となり、人生においても大きな力となってくれることでしょう。

大仲 千華 マインドセットコーチ・トレーナー、明治学院大学教員

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おおなかちか / Chika Ohnaka

国連の行政官(社会統合支援担当)として国連ニューヨーク本部、南スーダン等で和平合意の履行支援、元兵士の社会統合支援に約10年従事。二つの独立国の立ち上げに関わり、80人強の多国籍チームのリーダーを務める。閣僚経験者も任命される国連PKO国際研修の教官に米軍専門家として唯一の日本人女性として務める。国連事務総長特別代表養成研修パネリスト、防衛副大臣向け勉強会プレゼンター、内閣府「平和維持・平和構築に関する研究会」委員。コーチングのプロとして自分の軸で生きる大切さを伝えている。オックスフォード大学修士課程修了。

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