JR九州、観光列車「36ぷらす3」誕生までの舞台裏 九州を周遊する、その魅力はどこにあるのか

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走行中の車内では接客の訓練だけではなく、至る所で車掌や乗務員たちが議論を重ねていた。

「何を話し合っているのですか」。乗務員の一人に尋ねると、接客マニュアルでは乗車した客の切符の確認を一通り終えた後に改めて乗客にパンフレットを配って回ることになっているが、実際にやってみると、切符の確認とパンフレットの配布を同時に行うほうがいいのではないかと感じたのだという。では同時に配布するとしたら、パンフレットをどうやって携帯すべきか。このように、机上で作成したマニュアルが現場の声を受けて修正されることはよくある話のようだ。

ほかにも、時速120kmという観光列車としては速いスピードで走るため、接客中によろけたりすることがないよう、客室乗務員は少し足を広げて立ったほうがいいといったことを話し合っているグループもあった。

車両公開の当日、車掌や客室乗務員の制服も発表された。女性はスカートからパンツスタイルに。「高速で走って揺れることや畳に座る可能性があることも考慮してスカートではないほうがいいという意見があった」とJR九州の担当者が話す。制服のデザインも現場の意向を反映して作成されるという好例だ。

口元が隠れても笑顔が伝わるように

弁当を配る訓練では、乗客に丁寧に食材の説明をするという前提で、タイミングよく配り終えることができることができるかということも確認する。スムーズに配っていかないと食事を楽しむ時間が減ってしまうからだ。

その模様をスマートフォンで録画している客室乗務員もいた。「自分たちの所作が客観的にどう見えているのかを後で確認し合う」という。車窓を流れる風景をビデオカメラで録画している客室乗務員もいた。これも沿線の説明をするために使われる。

コロナ禍において、接客で工夫している点はあるかと尋ねてみたら、「マスクで口元が隠れた状態でも、目で笑顔を伝える練習をしている」とのことだった。コロナの影響ではなく、元々からあった研修の一つだという。

駅に到着すると、すべてのドアでホームとの隙間や段差を計測する。「実際の列車を入線させて、お客さまが安全にご利用できるかを確認しています」と、堀課長が説明する。客室乗務員は、エレベーターの位置や観光名所までの所要時分などの確認に余念がない。

5日間にわたるコースということは、それだけ接客の負担が増える。5つの観光列車を同時に作り出すくらい大変といってもよい。だが、生みの苦しみが深いほど、新たに生まれた列車の旅はより大きな感動をもたらすに違いない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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