分断社会の解法示す「キーパーある兵士の奇跡」 ドイツ兵捕虜が英国の英雄になる実話を映画化
第2次世界大戦で連合国軍の捕虜となってイギリスの収容所へ送り込まれたドイツ軍の兵士が、終戦後にサッカー選手としてイギリスとドイツを結ぶ平和の架け橋となり、 やがて国民的ヒーローとして敬愛された。戦争の記憶が色濃く残っていた時代に、なぜそんな奇跡を成し遂げることができたのか――。
その実話を実写化した作品が10月23日から新宿ピカデリーほか全国の劇場で公開される『キーパー ある兵士の奇跡』だ。2019年にドイツのバイエルン映画祭で最優秀作品賞に輝き、アメリカ、 イギリス、フランスなどの映画祭で次々と観客賞を贈られるなど、世界中の観客から評価を得ている。
ドラマチックかつ波瀾万丈な人生が描かれているが、本作のモデルとなったバート・トラウトマンはもちろん実在の人物だ。ドイツ軍の兵士として第2次世界大戦を戦っていた彼は、戦地で連合国軍の捕虜となり、イギリスのランカシャー収容所に送り込まれる。イギリスの収容所内での捕虜は過酷な労働が求められたが、その代わりに温かい食事が提供され、さらに仕事の合間にはタバコを吸ったり、サッカーをする自由も与えられていた。
ドイツ軍捕虜が英国チームのゴールキーパーに
そんなある日、トラウトマンは地元のサッカーチームの監督ジャック・フライアーにスカウトされ、ゴールキーパーとして無理やり試合に出場させられる。だが、チームメートは「ナチスと一緒にプレーはできない」と激しく反発する。もちろん観客からも激しい言葉が投げられる。だが、チームメートたちも真摯にプレーに打ち込むトラウトマンの姿を見ていくうちに、次第に彼に信頼を寄せるようになる。そして観客も彼を受け入れるようになる。
戦後、収容所が解放されてもチームのためにイギリスに残ったトラウトマンは、 監督の娘マーガレットと結婚。さらに、現在でも名門サッカークラブとして知られる「マンチェスター・シティ FC」の入団テストに合格する。だが、戦争によって友人や家族を奪われた人も多い、戦争の記憶が色濃い時代のことである。ユダヤ人が多く住む街で、トラウトマン夫妻は想像を絶するような誹謗中傷を浴びることになる。試合中も観客のブーイングは鳴りやまない。
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