分断社会の解法示す「キーパーある兵士の奇跡」 ドイツ兵捕虜が英国の英雄になる実話を映画化

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それでも、トラウトマンは愚直なまでにゴールを守り抜き、マーガレットは力の限り夫を信じ続けた。やがてトラウトマンの活躍によって、世界で最も歴史のある大会でチームは優勝する。トラウトマンは真の英雄となるが、その一方で誰にも打ち明けられない“秘密の過去”を抱え、苦しんでいた――。

主人公のバート・トラウトマンを演じるデヴィッド・クロス © 2018 Lieblingsfilm & Zephyr Films Trautmann

キャストは、ドイツ、イギリスを代表する実力派俳優が集まった。主人公のバート・トラウトマンには、ケイト・ウィンスレット主演の『愛を読むひと』で注目を集めたデヴィッド・クロス。 ドイツ兵だったという過去の闇に葛藤しながらも、それでも人を愛し、愛されたいと願う人間味にあふれた魅力的な青年を演じた。

彼の妻のマーガレットには、『サンシャイン 歌声が響く街』『モダンライフ・イズ・ラビッシュ ロンドンの泣き虫ギタリスト』のフレイア・メーバー。“敵”とみなしていた相手を“人”として愛するようになり、やがて逆境にさらされる夫を献身的に支えるマーガレットを力強く、魅力的に演じている。

メガホンをとったのは、ドイツ国内で高い評価を受けるマルクス・H・ローゼンミュラー。彼はトラウトマンの人生を映画化するにあたり、「まずはすばらしいスポーツマンシップの話であることにひかれましたが、ただそれだけでなく、人間社会を描いているということと、和解と愛の物語だということに感動しました」と振り返る。

分断社会を解決するヒント

本作プロデューサーのロバート・マルチニャックは「彼はサッカーファン以外にはドイツでもあまり知られてない」と語る。イギリスでキーパーとしては初となるFWA(サッカーライター協会)年間最優秀選手賞を獲得するなど、その才能は認められながらも、イギリスとドイツという地理的な問題や政治的な理由などにより、ドイツ代表としてプレーすることはかなわなかったからだ。

イギリスで捕虜となったトラウトマンは戦後も同国に残り、名門サッカークラブ「マンチェスター・シティ FC」のゴールキーパーとして活躍する © 2018 Lieblingsfilm & Zephyr Films Trautmann

だが、映画公開時にはドイツサッカー連盟が本作の宣伝に協力し、その存在が広く知れ渡ることになった。そして映画が公開されると、ローゼンミュラー監督とプロデューサーのマルチニャックは、訪れたイギリスとドイツの映画館で、驚くほどたくさんの称賛と感謝を受けたという。

戦争によって怒りや憎しみ、そして悲しみが増幅され、人々が分断されてしまう悲劇。それは現代にも通じるものがある。ローゼンミュラー監督は「敵だった人物が国民的ヒーローになる。それは、スポーツというものが、和解するために重要な役割を果たしていたことも示している」と語る。

しかしそれは簡単なことではない。それでもローゼンミュラー監督はこう付け加える。「わたしにとって大切なのは、この完璧ではない世界で葛藤しながら、それでも完璧な世界を切望する人々を描くことでした。それは、誰もが罪悪感なく幸福に満ちあふれて過ごすことができる時間への強いあこがれでもあります」。

分断社会を解決するヒントをも与えている作品だといえるだろう。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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