私が届ける野菜!「食べチョク」女社長の凄腕

農家の娘がコロナで直面した、日本の農業危機

次々と新規事業を立ち上げるDeNAでは、徹底的に市場をリサーチしたうえ、アグレッシブな目標を掲げることが求められる。3年後の売上高目標を100億円に設定されるなどザラ。とはいえ、農産物のECとなれば、市場規模は限られる。「ビジネスの領域が大きければ、社内での新規事業立ち上げを考えたかもしれないが、農業だから起業するしかなかった」(同)。

実際に起業すると、課題は山積みだった。無名のサイトに農産物を出品する生産者など簡単に現れるはずもない。秋元は生産者の元を訪ね、「農家の娘です。手伝わせてください」と仕事を手伝いながら懐に飛び込み、出品を増やしていった。ところが産直野菜のECなら、すでにオイシックスや生協などがあり、差別化し存在感を出していくことは容易ではなかった。

苦労したのは資金調達だ。2019年10月に2億円を調達したときは、「70社に断られた。何度も事業計画を見直しながら9カ月かかった」(秋元)。世間はベンチャーブームに沸き立っていたが、農業分野は投資家からのウケが悪かったのもある。

「これまではゼロを1にする起業家フェーズだったが、今年は経営者元年」と秋元社長は語る(撮影:今祥雄)

そこで秋元は株式上場を見据えて、徹底的に事業モデルや戦略を洗い直した。消費者にどうやって継続購入してもらえるか、仕組みを考えて、ネットを使ったマーケティングの強みを尖らせようと意識した。

うれしかったのは古巣のDeNAが出資者に加わってくれたことだ。出資が無事に決まって呼ばれた会では、憧れ続けた南場が参加者に食べチョクで扱うみかんを配ってくれた。

成長は遅くても、気持ちよく働ける組織を

さらには8月の6億円調達でも、DeNAは追加出資をしている。「昨年10月はDeNA出身の私個人を応援してくれていたが、今年8月は足元の数字を見て事業の可能性を信じてくれている感じがあった」と秋元。他にも大手ベンチャーキャピタルのジャフコが株主に加わっている。

起業して4年目を前に、秋元の心境にも変化が起きている。「最初のころはDeNAのような組織が完璧だと思っていた。でも食べチョクは、ゲーム業界と比べると成長速度は遅いし、高利益体質ではない。だからこそ会社の存在意義に共感してもらい、気持ちよく働ける組織にしたい」と考えるようになったという。

出口の見えないコロナ禍に対しては、短期的にはマイナスでも、長期的にはプラスと見ている。「農家が新しい販路を探して直売に興味を持ってくれるようになったのはプラス。農家にはどんな商品が喜ばれるのかなど、マーケット感覚を身につけてほしい。農家の意識改革は誰もやれていない未知なる領域」と秋元は指摘する。

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