目指すべきSPMは15。でも日本人の平均は?
安河内:遅いだけじゃなくて、速すぎるのもマイナスになるのですね。
ソレイシィ:日本人ではまだ出会っていませんが、インド人とかロシア人などで、超ハイスピードで話す人がいました。これだとビジネスの場で「誰にでも」わかる必要性のある国際コミュニケーションとしてふさわしくない。逆に、なかなか言葉が出てこない人もいます。どれぐらいの基準で言葉がスムーズに出ているかが重要です。
安河内:それがtransparentにわからないとダメなのですね。
ソレイシィ:そうです。
安河内:そして、その客観的な基準がSPMであると。
ソレイシィ:ええ。私は博士論文作成のとき、ハンガリー系アメリカ人、エジプト人、イラン人のインタビューを1時間聞き、その内容を書き起こして、文や節に分けながら、SPMの数値を割り出しました。
安河内:SPMの理想の標準値はいくつぐらいなのですか?
ソレイシィ:私が基準としているのは、SPM15前後です。もちろん同じスピーカーでもいつも一定ではありません。泣きながらだとか、ドラマチックに話している場合はSPM10になったりもします。少しゆっくりめに話す傾向のあるダライラマ氏の平均SPMは16でした。彼の場合は、独特の間、long dramatic pauseがあるのです。とても巧みな話術です。
安河内:それでも16はいくのですね。ということは、(その論文に収録されている俳優の)エドワード・ノートンのようなネイティブスピーカーの場合なら、20を超えたりもするのでは?
ソレイシィ:エドワード・ノートンのSPMは平均で20を超えてしまっています。 何を言っているかネイティブにさえわからないときがありますね。彼はイェール大学を出た知的な人なんですけども、会話が途切れ途切れになったり、And I think, I mean…、if, if you look overall…、I think that… uhm…というような発話の癖が頻出します。
安河内:And I think, I meanというのも全部、1 clauseとしてカウントするのですか?
ソレイシィ:いいえ、そのようなつなぎの表現や、主語、動詞がない場合はclauseとはカウントしません。
エドワード・ノートンの後で、ヒラリー・クリントンや、(エジプトの政治家でノーベル平和賞受賞者の)モハメド・エルバラダイのSPMを分析すると、政治家は話し方がホントにうまいなというのがわかります。 ヒラリーのSPMの平均は16~17あたりでした。クリアに話すことに慣れていて、彼女の場合、ただのネイティブスピーカーではなくて、good communicatorと言えると思います。
また、日本人学生のSPMを調べたこともあります。大学1年生で、英語の学習歴は「high level, high motivation」とカテゴライズされたグループを調べたのですが、“Tell me about your hometown.”と尋ねたときの返答はこんな感じでした。
“My home town is Kotou city. I’ve lived here for about seven or eight years. Ah …, it’s …, well …, it’s convenient to go to Shinjuku or Tokyo.”
これだけで30秒くらい経っているんですね。ですから、SPMは6で、SPMの理想となる標準値の15にはまったく及ばないレベルです。当然、ビジネスの場でも通用しません。
でも、こうして客観的に自分のSPM値を知ることで、自分のスピーキング速度や足りない点がはっきりし、次に何をしなければいけないかが明確になります。
ちなみに、hometownを尋ねるトピックは難易度としては初級者向けのもので、上級者向けにはもっと高度なトピックになります。スピーキングテストの場合、トピックや会話の設定によって難易度を調整します。
私のSPM Interview Testの場合は、難易度を3つのレベルに分けてやっています。先ほどのhometownについてのトピックのようなものは、スピーキングの最初のステージ「説明能力」を試すものです。次のステージでは説明能力に加えて「英語を話しながら分析しつつ、説得できる能力」を測るトピック、さらにその上のステージでは「interpersonal(相互調整能力)」も測るトピックを用意しています。
運用面でも実用的にテストになるように工夫しました。初心者向けのテストでは、平均すると2時間で約150人をテストできます。ひとりにかかる所要時間は、「説明能力」を測るトピックの場合、約7分です。
安河内:1分間しゃべって、何センテンスを発せられたかは、セルフチェックもできますし、明快な尺度になりますね。ソレイシィ先生の開発したスピーキングテスト、今度、私もぜひ受けさせてください。
ソレイシィ:ええ、もちろん。
(構成:山本 航)
※次回は6月4日(水)に掲載します。
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