実は、このアレス・デザインのCEOであるダニー・バハーは、ロータスのCEOを前職としたが、その前はフェラーリのエグゼクティブとして、マーケティングやライセンス部門のディレクターを務めたこともある人物だ。
だからこそ、フェラーリがそのヘリテージや商標などに関して、ディズニー並みにこだわっていることをよく知っている。
その彼がフェラーリと一戦を交えたということは、自分たちにとって有利な判決が下されるであろう予測も含め、事業の未来に対する確固たる自信があることにほかならない。バハーは当地の王者であるフェラーリと戦ってまで、今までモデナにはなかった新たな付加価値ビジネスを始めたのだ。
カロッツェリアのイメージを覆すファクトリー
筆者は彼らのファクトリーを幾度か訪れている。それは1万8000平方メートルと広大で、多くのスタッフを抱えたすばらしいものだ。
ザガートなど、一般的な少量生産カロッツェリアは、ごく少人数のメンバーとこぢんまりとした施設しか持たず、ほとんどの作業を外注している。それとは対照的に、アレス・デザインはエンジニアリング部門のみならず、カーボンファイバー製パーツの製造から内装、ペイントなど、ほぼすべての工程を内製化している。
ホワイトで統一されたファシリティ内は、隅々まで清潔に磨き上げられており、多くのスタッフで活気にあふれていた。アッセンブリーラインには、製作中のバラエティに富んだラインナップが並んでいる。
オリジナルの4ドアモデルから優雅な2ドアクーペへとコンバージョンされたベントレー「ミュルザンヌ」。ポルシェ「911 GT3 RS」をベースにチューニングを行い、タルガボディへと変身した「GT3タルガ」。
これらは、アレス・デザインの名を世界に知らしめた人気モデルだ。そして、ビスポークのバイクまでもラインに並んでいる。
彼らは、古きよきカロッツェリアの伝統として、顧客からの発注によるワンオフカー(1点モノ)の受注も積極的に行っている。デザインチームは顧客のイメージを元に、スケッチをやりとりし、具体的な仕様決定までを進めていく。
工場内には、テスラやポルシェ、ロールスロイスをベースとした、何台ものワンオフモデルを見ることができた。
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