キオクシア、時価総額「2兆円上場」に潜む死角

東芝の経営危機から3年、NANDで成長なるか

キオクシアは現在、主力の四日市工場(三重県)に続く第2の生産拠点として、北上工場(岩手県)の整備を進めている。四日市でも新たな生産棟の敷地を造成中だ。

キオクシア上場の狙いは、本来は市場から調達した資金をこうした成長投資に充てることが目的のはずだ。だが、今回のIPOで手にするのは新規発行額のうち、証券会社への手数料などを引いた819億円にとどまる。年間3000億円強の設備投資を必要とするキオクシアにとって、IPOによる調達額が大きいとは言えない。

キオクシアは2019年6月、三井住友銀行、三菱UFJ銀行、みずほ銀行の3行から9000億円の融資を受けたほか、日本政策投資銀行に対して3000億円の非転換社債型優先株を発行した。合計1兆2000億円のうち6000億円は、アップルなどからの借入金返済に充てる。

複雑な資本関係はそのままに

IPOに伴う資金調達額が小規模にとどまったのは、多数の新株発行によって株価が下がってしまうことや希薄化をベインが懸念したからだという指摘が少なくない。東芝メモリ成立時の複雑な経緯から競合のSKハイニックスも間接出資した状態のままで、このSKハイニックスの持ち分は今回の上場時も売り出されない。

IPO後も東芝メモリ発足時に編み出された複雑な資本関係は大きく解消されないままだ。

2020年1月に社長交代に関する説明会に臨む早坂伸夫社長(左、撮影:大澤誠)

投資判断に影響を与える経営体制を懸念する声もある。東芝メモリ時代から出資交渉などで前面に立ってきた成毛社長は病気を理由に2020年1月に退任し、7月に亡くなった。後を継いだ早坂伸夫社長は東芝時代から一貫して技術畑を歩んできた。アメリカのインテルで上級副社長などを歴任したステイシー・スミス氏が2018年10月から会長を務めているが、代表取締役は早坂氏だ。

ある業界関係者は、「キオクシアが今の経営体制のままで、適切なタイミングで一気に投資を決断できるだろうか」と心配し、半導体企業の経営には技術面への深い理解と経営戦略面での判断力がともに必要になると指摘する。

大株主として残るベインや東芝のサポートがカギを握るが、東芝はキオクシアの経営に積極的に関与する意思がないことを表明している。ベインも半導体企業経営の専門的な知見が豊富とはいえないとされる。

上場でさらに資金調達の方法が増えるが、関係者が複雑化する中で足並みをそろえて意思決定のスピードを高められるか。今後の経営方針について市場への説明責任も増していく。上場公約を果たしたが、今後も気の抜けない状態が続くことは間違いない。

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