「窓開け」NG、ジャカルタ通勤電車のコロナ対策 地下鉄は本数減でも郊外からの電車は平常運行

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こんな中、MRT南北線第二期工事が一部区間で着工したが、もともと需要の少ない区間でBRTで十分な輸送量であることからも、将来的に東西線と接続するタムリンを介してモナスまでの暫定開業(今回着工した区間)になる可能性もある。

仮に最終目的地のコタまで開業したとしても、さらなる用地買収を必要とする新たな車両基地は建設せず、追加の車両発注もなくなるのでは、ともささやかれている。その先の東西線では、もはや有償借款など活用されなくなるのではないか。

大規模社会制限の緩和後のMRTの駅ホーム。朝8時半だが人影はほとんどない(筆者撮影)

混雑しているKCIとて、MRTほどではないがコロナ禍が経営に大きな影響を与えている。

毎年コンスタントに日本から車両を導入していた同社であるが、2020年には一旦中古車両の輸入特例が期限を迎えるため、その動向が注目されていた。引き続き車両は不足することから、いくつか新たな中古車両が候補に挙がっていたようだが、2021年の車両導入計画は今のところすべて白紙に戻っているといい、十数年ぶりに新規導入車両がゼロとなる可能性が高い。もっとも、あまりに増えすぎた利用客数に設備投資が間に合っていなかった面もあるため、ある程度の利用者減は悪い話ではないとも言える。

なお、親会社のKAIは運行の大半を占める長距離列車が1カ月以上にわたりほぼ運休になったこと、そして運転再開後も長距離移動の需要減に加え、陰性証明書の提示が義務付けられていることから利用者がバスなどに流れている。駅で迅速抗体検査を割引価格で受けられるようにしたり、フェイスシールドを無料配布したりして乗客の安心感の向上に努めているものの、乗車率は低迷しており非常に厳しい経営状況となっている。

5年後、10年後への影響は…

もはや半年後の状況ですら予想のつかない状況になってしまったが、すべてがコロナ禍前の状況に戻ることはありえない。

BRT停留所に設置されているジャカルタの感染者数情報。全体数の3分の1程度がジャカルタと周辺都市での発生である(筆者撮影)

しかし、はっきりと言えるのは、ソーシャルディスタンシングとマスク着用の効用は意外に侮れないということだ。インドネシアの新型コロナウイルス対策は終始この2点と小まめな手洗いを叫び続けてきたにすぎない。感染者数の多さは3億人という人口が響いているものの、100万人当たりの数で見ると、少なくとも8月下旬時点では決して大きな数値ではない。

もちろん言いたいことも山ほどあるが、新型コロナ対策に模範解答など存在しない。唯一答えがあるとすれば、どんな状況であっても経済を回し続けなければならないということだ。まして、人の移動そのものが「悪」とされてはならない。経済の大動脈たる鉄道を後世に残し、発展させていくためにも、国、自治体、そして事業者が連携して利用者に健康プロトコールを厳守させながら、人々の往来を創出してゆかなければならないだろう。

順風満帆にも思えたジャカルタの都市鉄道整備だが、果たして5年後、10年後、どのような光景を見せてくれるのだろうか。

高木 聡 アジアン鉄道ライター

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たかぎ さとし / Satoshi Takagi

立教大学観光学部卒。JR線全線完乗後、活動の起点を東南アジアに移す。インドネシア在住。鉄道誌『鉄道ファン』での記事執筆、「ジャカルタの205系」「ジャカルタの東京地下鉄関連の車両」など。JABODETABEK COMMUTERS NEWS管理人。

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