韓国の若者が「就職難」でも大企業にこだわる訳 食い繋ぐため望まぬ仕事や苦しいアルバイトも
熾烈な競争をくぐり抜けるからこそ、その先で支配層となった者たちの自意識は肥大し、時に暴走する。韓国での支配層のメンタリティと聞くと、2014年に起きた「ナッツ・リターン事件」を思い出した読者もいるかもしれない。
大韓航空創業者一族の長女で、当時副社長を務めていたチョ・ヒョナがニューヨーク発仁川行きのファーストクラスに搭乗した際、皿に盛られて出されるはずのナッツが袋のまま提供されたことに激怒。旅客機の離陸を中止させた事件だ。
チョには法の裁きが下ったが、構造はいまだ変わらぬままだ。前述のとおり、韓国では大企業が日本よりもはるかに狭き門となっている。だが尋常ではない競争を勝ち抜いて入社しても、激務に耐えきれず、早々に辞める人も多い。昇進試験の評価が悪ければプレッシャーを受けて自主退職を迫られる。40代のうちに役員コースに乗らなければ出世が閉ざされる、といった現実が「大企業40代定年説」とも呼ばれる事態を招いている。
韓国の平均退職年齢は49.1歳
実際、平均退職年齢は49.1歳(2018年韓国統計庁調べ)で、実際にはそれよりも早いと話す韓国人は多い。退職後、子どもの学費を支払えず車や家を売るケースもある。辞めた後は中小企業に入り直すか、アルバイトをするか、起業するかの三択となるが、中高年からではどれも茨の道だ。大企業出身者は、再就職しても7割が新たな職場に適応できず、やはり1年以内に辞めてしまうという研究結果もある。
取材したうちの数人が「大企業を45歳前後で辞めて、それまで貯めたお金でチキン屋を開くのが、そこそこの人生コース」と話していたのがとても印象的だった。
ここで近年における韓国の経済状況をざっと整理したい。韓国は1997年に通貨危機を経験し、一時、国家破綻の危機に直面している。経済は大混乱に陥り、IMF(国際通貨基金)より資金支援を受けることでなんとか乗り越えるも、多くの企業が倒産し、財閥解体、政権交代などの結果を招いた。これは「IMF経済危機」とも呼ばれる。
その後、2007年の世界同時不況を契機として、通貨であるウォンの価値は下落。2008年10月には再び通貨危機を経験することになる。
この間、経済面での浮き沈みはあるものの、基本的には低迷期間が長く続き、特に2000年からは青年失業率が上昇の一途を辿った。その中で、韓国の若者は世界でも類例のない「多重貧困」にさらされている。
複合的で特定しにくいが、その原因にますます広がる格差と、学歴による過当競争が挙げられるのは間違いない。たとえば一流企業と中小企業の賃金格差はとても大きい。
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