アベノミクスの8年とはいったい何だったのか 株価は一時約3倍でも、実体経済に高揚感はなし

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内閣府によると、日本経済の実力を示す第2次内閣後の潜在成長率は1%弱と低位のまま推移。最近は一段と失速感がある。18年の成長率は実質0.3%、19年は0%にとどまっている。

背景には、イノベーションの成果などを反映した「全要素生産性」が振るわなかったこともある。20年に入ってからは、消費増税やコロナ感染の影響により2四半期連続でマイナス成長となっている。

元日銀理事の早川英男氏は、成長戦略の看板が次々と掛け変わり、潜在成長率の引き上げを実現できなかったと振り返る。経済財政諮問会議のもとに設置した「選択する未来2.0」の翁百合座長(日本総研理事長)は今年7月、西村康稔経済再生担当相に「総じてデジタル化を本気で『選択』してきたとは評価できない。人材活用のあり方にも課題が多い」とする報告書を提出し、政府に対応を促した。

オンラインを使った診療や教育など、日本経済のデジタル化が進んでいないこともコロナ禍で露呈した。「アベノミクスの『裏の失敗』はデジタル化の遅れだ。今回の危機であらためて浮き彫りとなった」と、大和証券の岩下真理チーフマーケットエコノミストは指摘する。

財政再建は進まず、コロナが追い打ち

財政政策運営を巡っては、当初予算案の編成時に新規国債を減額することが慣例となった。今年1月の施政方針演説でも安倍首相は「来年度(20年度当初)予算の税収は過去最高となった。8年連続での減額だ」と説明し、経済成長に伴う税収増と財政健全化の両立をめざす姿勢を崩さなかった。

ただ、年度途中の補正予算編成が常態化し、実際の発行額が確定する決算ベースでは16、18、19年度と前年度を超えた。予算編成過程でも外国為替資金特別会計(外為特会)からの繰入金といった「税外収入」に頼る場面も増え、野党からは「公債発行を減らせたというのは矛盾、粉飾だ」(国民民主党の前原誠司議員)との批判が出た。

消費税については任期中に2度引き上げた政権は初めて。ただ、2度目の増税については「リーマン危機のような重大な事態が起きない限り、予定通り引き上げる」と繰り返し説明してきたにも関わらず、2回先送りした。

財政再建はコロナ禍に伴い財政収支黒字の25年度達成目標が一層困難となり、今年7月の経済財政運営の指針(骨太方針)では財政目標の議論そのものを明記することを取りやめた。

コロナ禍の経済環境を「大恐慌以来の景気後退」と断じる国際通貨基金(IMF)は、日米などの株価上昇に対して「実体経済と乖離(かいり)し、割高感がある」と警鐘を鳴らす。20年4―6月期は、日本の国内総生産(GDP)が実質年率マイナス27.8%(485.2兆円)と第2次政権前の水準に逆戻りし、上場企業の約3割が赤字に陥った。コロナ禍の直撃で10兆円規模の税収減も想定される。「税収の問題は今後必ず議論になる」と、経済産業省幹部の幹部は言う。

(ポリシー取材チーム 編集:久保信博)

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