FRBの「平均」2%目標、いったい何を考えたのか 日銀の経験に照らせば「意気込み」の効果は疑問

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

注目されたジャクソンホール経済シンポジウムにおけるパウエル議長の講演においても、当然、「アベレージ・ターゲット」についての言及が見られているが、運営に係るヘッジ文言が目立った印象である。

「New Statement on Longer-Run Goals and Monetary Policy Strategy」と題したパートにおいて、パウエル議長は「平均2%という物価目標を実現するにあたって、平均を定義する数学的な特定の式(a particular mathematical formula)を使うつもりはない」と明言している。

結局、定性的な議論に基づいて決まる

また、これに続けて「われわれのアプローチは柔軟な形式でのアベレージ・ターゲット(a flexible form of average inflation targeting)である」と述べ、あくまで「なんらかの式(any formula)」ではなく「一連の幅広い議論(a broad array of considerations)」を反映して決まると念押ししている。さらに、「仮に強いインフレ圧力が見られたり、インフレ期待が目標を超えて動くような動きが見られたりした場合、われわれは躊躇なく行動する(we would not hesitate to act)」とも述べている。

結局、物価動向を評価するうえで平均概念を持ち込んだところで、その適用期間は定性的な議論に基づいて決まるという話である。しかも、物価の勢い次第では、躊躇なく引き締めに動くというのだから平均概念も状況に応じて反故にされる可能性をはらむのだろう。

そもそも、これまでもFRBは2%を節目とする「対照的な物価目標(a symmetric target)」としてきたのだから、2%を超える展開を認めていなかったわけではない。そこに平均概念を持ち込んで、何が決定的に変わるのか。今一つ分かりにくいというのが筆者の正直な第一印象である。もちろん、状況に応じていろいろな方便が使われるのは中銀の常であり、期待をコントロールするうえでは重要な行為と考えられるが、今回の金融政策戦略の変更は市場にとって、それほど大きな話になるものではないだろう。

※本記事は個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係です。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事