FRBの「平均」2%目標、いったい何を考えたのか 日銀の経験に照らせば「意気込み」の効果は疑問

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注目されたジャクソンホール経済シンポジウムにおけるパウエル議長の講演においても、当然、「アベレージ・ターゲット」についての言及が見られているが、運営に係るヘッジ文言が目立った印象である。

「New Statement on Longer-Run Goals and Monetary Policy Strategy」と題したパートにおいて、パウエル議長は「平均2%という物価目標を実現するにあたって、平均を定義する数学的な特定の式(a particular mathematical formula)を使うつもりはない」と明言している。

結局、定性的な議論に基づいて決まる

また、これに続けて「われわれのアプローチは柔軟な形式でのアベレージ・ターゲット(a flexible form of average inflation targeting)である」と述べ、あくまで「なんらかの式(any formula)」ではなく「一連の幅広い議論(a broad array of considerations)」を反映して決まると念押ししている。さらに、「仮に強いインフレ圧力が見られたり、インフレ期待が目標を超えて動くような動きが見られたりした場合、われわれは躊躇なく行動する(we would not hesitate to act)」とも述べている。

結局、物価動向を評価するうえで平均概念を持ち込んだところで、その適用期間は定性的な議論に基づいて決まるという話である。しかも、物価の勢い次第では、躊躇なく引き締めに動くというのだから平均概念も状況に応じて反故にされる可能性をはらむのだろう。

そもそも、これまでもFRBは2%を節目とする「対照的な物価目標(a symmetric target)」としてきたのだから、2%を超える展開を認めていなかったわけではない。そこに平均概念を持ち込んで、何が決定的に変わるのか。今一つ分かりにくいというのが筆者の正直な第一印象である。もちろん、状況に応じていろいろな方便が使われるのは中銀の常であり、期待をコントロールするうえでは重要な行為と考えられるが、今回の金融政策戦略の変更は市場にとって、それほど大きな話になるものではないだろう。

※本記事は個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係です。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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