37歳で腎臓がん手術受けた彼の壮絶な闘病記録 大腸がんステージ4克服した彼女は何を見たか

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再度入れ始めた仕事を、キャンセルして回るのも堪えた。「最初の手術のときも仕事の調整は大変だったが、2度目となると喪失感と失望しかなかった。フリーランスとして長年かけて築き上げた信頼をすべて失う覚悟だった」。

転移を克服し、地域に根ざし活動する岩井ますみさん(記者撮影)

術前の抗がん剤治療を1年続け、2010年秋に肝臓に転移した腫瘍を取り除く手術を行い無事成功。術後の抗がん剤治療は、同じ状況での世界中の標準治療だと主治医に勧められた「ゼロックス療法」に決めた。ただし、手足や喉に激痛が走るなど副作用が強く仕事はほとんどできず、通院治療と服薬のみの日々が続いた。薬の内容を変えつつ、抗がん剤治療は2012年5月まで延べ2年半続いた。

「治療が終わりようやく仕事に戻れると思ったら、フリーの自分には戻る場所がないとわかり、うつ状態になってしまった」。貯金も半分になってしまい早く働きたいが、当初はやれる自信も体力もなかった。

ただ、専門医の診察を受け、徐々に回復。今は地元に目が向くようになり在住の市川市に教室を開いたり、資格を取得し認知症予防の活動にも取り組んだりしている。著書『働く女性のためのがん入院・治療生活便利帳』も出版した。岩井さんは、「40歳代はがんとの戦いで終わってしまったが、この経験を生かして仕事の幅を広げたい」と語る。

患者は自分の未来が見たい

「がん患者は同じがんの経験者から、実際の治療や治療後の体調の変化、症状を時系列で知りたい。要するに自分の未来を見たいわけだ」

立ち上げから5年半で1万人を超える会員を集めるがん経験者コミュニティ「5years(ファイブイヤーズ)」の大久保淳一代表は話す。実際がんの告知を受けると、今後どんな治療が始まって、いつ終わって、その後どういう生活が待っているのか、まったくわからない暗闇に落とされる。

経験のない多くの人は退院したり治療が終わったりしたら「治癒した」と誤解しがちだが、がん患者にとっては治療が終わってからのほうが圧倒的にきついのが現実だ。再発の不安に加え、ハンディキャップを負っている可能性も高い

「こうした事情が知られてないのは、がんになったけれども、その後も元気で頑張っている人の情報の発信が少ないためだ。より多くのがん患者が自分の希望となるようなロールモデルと出会えるような場にしていきたい」

大久保代表はそう力を込めた――。

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『週刊東洋経済』9月5日号(8月31日発売)の特集は「がん治療の正解」です。
風間 直樹 東洋経済コラムニスト

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かざま・なおき / Naoki Kazama

1977年長野県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒、法学研究科修了後、2001年東洋経済新報社に入社。電機、金融担当を経て、雇用労働、社会保障問題等を取材。2014年8月から2017年1月まで朝日新聞記者(特別報道部、経済部)。復帰後は『週刊東洋経済』副編集長を経て、2019年10月から調査報道部長、2022年4月から24年7月まで『週刊東洋経済』編集長。著書に『ルポ・収容所列島 ニッポンの精神医療を問う』(2022年)、『雇用融解』(2007年)、『融解連鎖』(2010年)、電子書籍に『ユニクロ 疲弊する職場』(2013年)など。

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