新「5カ年計画」を立てる金正恩委員長の胸の内 「成長目標は甚だしく未達成」と発表した北朝鮮

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北朝鮮経済に詳しい環日本海経済研究所(新潟市)の三村光弘主任研究員は、「餓死者が出た1990年代後半当時の状況ほど悪くはないが、それでも経済状況は厳しい。2010年代以降の経済回復の分を使い切ってしまったのではないか」とみる。

これまで中国やロシア側の統計を見ると、小麦粉や食用油といった食料品や生活必需品、コロナ禍対策に必要な医療用品などが輸入されていることがわかっている。同時に、企業や工場単位での「目標達成」を称える報道や大規模建設事業が「順調に進んでいる」とする報道が連日続いている。

国家プロジェクトにも支障

しかし、「建設に必要な重機などの建設機械は不足している状態。平壌総合病院や建設が続けられてきた(北朝鮮東部)元山葛麻観光開発区といった国家プロジェクトは遅延しているのではないか」(対北朝鮮ビジネスに携わる中国人ビジネスマン)という指摘も現実味を帯びる。

「5カ年戦略」が明らかにされた2016年当時、中期計画がようやく策定されたことに対して、「1990年代後半の厳しい経済状況は、足元の問題を解決するのに精いっぱいで単年度計画をようやく立てられる状況だった。経済状況が徐々に回復してようやく、経済全体をバランスよく計画できるような状況になった」との指摘が出たことがあった。

一方で、前出のランコフ教授は「かつては社会主義との関連性がより低く見える“戦略”を使ったが、今回“計画”としたのは、旧ソ連時代のマルクス・レーニン主義的な臭いがする。北朝鮮は今後、国家として保守化するのではないかとの懸念も湧く。党大会を開き、そこでの議題が5カ年計画というのも、1950年代末からのソ連共産党と同じような行動様式だ」という。

実際に、故・金正日総書記時代(1994~2011年)には「苦難の行軍」とされる経済難の時代であり、中期経済計画は発表されていない。足元の経済状況が悪化しているとはいえ、今度は「戦略」から「計画」へと、より具体的な目標がともなう計画を立案すると鮮明にしたことになる。北朝鮮のこれまでの行動を考えると、その中身が対外的に公表されない可能性は高い。しかし、結果を残せるものでなければ、「経済強国」を目指す金正恩政権の実力が問われることになるだろう。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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