新「5カ年計画」を立てる金正恩委員長の胸の内 「成長目標は甚だしく未達成」と発表した北朝鮮
2016年の党大会で金正恩・朝鮮労働党委員長は、それまでの経済的成果を誇示しながらも、「ある経済部門は情けないほど劣っており、人民経済部門間のバランスが適切に確保されずに、国の経済発展に支障を来している」と否定的な内容まで報告し、世界の北朝鮮ウォッチャーを驚かせた。今回発表された「成長目標が甚だしく未達成」「人民生活が目に見えて向上しえない」といった文言からは、「5カ年戦略」で設定された目標には達していないという意味合いが透けて見える。
北朝鮮問題に詳しい、韓国・国民大学のアンドレイ・ランコフ教授は「2019年ごろから、5カ年戦略への言及がなくなり、この戦略の失敗を暗黙のうちに認めてきた。成長目標が甚だしく未達成と言及したことは驚くに当たらない」と指摘する。
では、現在の北朝鮮経済はどのような状況にあるのか。新型コロナウイルスの流行が中国で広がり始めた2020年1月下旬、北朝鮮は早々に国境の封鎖を宣言。その後も「非常防疫体制」を進める一方、国境封鎖が北朝鮮の対外経済活動を萎縮させ、経済状況が厳しくなっているとの声が聞こえてくる。
2019年はプラス成長との統計も
韓国の中央銀行である韓国銀行は7月末、「2019年の北朝鮮の経済成長率は0.4%のプラス成長」と発表した。2016年の3.9%成長から翌17年は一転、マイナス3.5%となり、18年にはマイナス4.1%だった。
2019年は経済状況が改善した、という見方になる。改善した理由について韓国銀行は、2019年には自然災害や日照りと言った悪条件が小さく、農業生産が増加したこと。また、経済制裁の対象品目以外の輸出品が伸びたこと、国内の建設需要が増えたことなどを指摘している。ただ、韓国銀行が発表する北朝鮮関連統計は、北朝鮮自身が統計を発表していないことに加え、韓国の政権の対北朝鮮政策の思惑によりバイアスが強く入ることがあり信頼性に欠けるとの評価もある。
2019年は改善したと言っても、2020年の現状は非常に厳しい。7月2日付の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は、首都・平壌市民の生活安定のために朝鮮労働党が奮闘しているといった内容を伝えながらも、その経済状況については「すべてのものが不足し、厳しい」と表現しているほどだ。また今夏は台風などで水害が各地で発生し、その復旧作業に努力している様子が報道されている。金正恩政権は、従来のコロナ禍対応に加え、水害復旧という新たな問題に対処しなければならなくなった。
7月中旬ごろから金委員長が経済の現場や水害普及現場に積極的に出ていることが報道されているが、これは現在の北朝鮮指導部の最大の関心が経済状況にあることを示唆しているとの見方もある。
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