青山と銀座、高級商業地で進む「テナント離れ」 相次ぐ退去、銀座の空室率は7%台の可能性も

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商業施設のデベロッパーや仲介業者は「解約通知の量はリーマンショック時よりも多い」と口をそろえる。

リーマン当時はショックの影響が徐々に顕在化したのに対して、今回は短期間でテナントの売り上げが消失。感染収束も見えない中、営業継続を断念するテナントが相次いだ。家賃支援をはじめとする国の補助金が切れた段階で、次なる退去の山が訪れるとみられる。

退去が相次ぐ背景には、テナントとビルオーナーとの摩擦も垣間見える。都内を中心にダイニングレストランを多数展開するグローバルダイニングは、7月末をもってレストラン5店舗で構成する「G-Zone銀座」を閉店した。関係者によると、賃料や空調費の減免を求めたグローバル側に対して、減免幅の縮小と解約が原則不可能な定期借家契約への切り替えを主張したオーナーとの溝が埋まらず解約に至ったという。

閉店直前のG-Zone(記者撮影)

収益性を重視するビルオーナーは、テナントからの賃料減免には簡単に応じられない。都内の建物管理業者は、「賃料減免を拒否した結果、テナントに退去されて空室が埋まらなければ機会損失が発生する。現場としてはテナントと痛み分けをした方が中長期的には有利だと感じても、投資家(ビルオーナー)には理解されないことも多い」と打ち明ける。別の不動産仲介業者によれば、銀座に立つある商業施設では、近々契約更新を迎えるテナントに対して、ビルオーナーが賃料の増額改定を要求したケースもあったという。

敬遠される地下1階

商業施設内における好立地の序列も変わろうとしている。これまでは1階の次に賃料が取れるフロアは、2階もしくは地下1階だった。地階は通りから直接入店できる手軽さに加え、階段を降りる間にも店舗の世界観を形成できた。だが、換気の難しさや密閉空間というイメージからテナントが地階を忌避。場合によっては3階以上の空中階の方が引き合いは強いという。

高級商業地の賃料が高いのは、集客力と、そこに出店することによるブランド価値があるから。そのため、「希少性の高い立地であれば(一時的に売り上げが減少していても)手放したくないというテナントは少なくない。外資系ブランドの場合、店舗を閉めても賃貸借契約は保ちつつ、別のブランドを入居させるという動きもある」(サンフロンティア不動産の小川氏)。

他方で別の不動産仲介業者は「外出自粛で人出が減り続けば、広告塔としての存在意義を再考するテナントも出てくるのでは」とみる。

緊急事態宣言解除から3カ月が経過しても、商業地に立つテナントの売り上げがコロナ前に戻る兆しはない。大手デベロッパーの商業施設開発担当者は、「好立地に有名ブランドを入居させられれば収益が上がる時代は終わるかもしれない。特定の客にしか刺さらなくても、訴求力がある物件の方が求められる」と危機感をにじませる。

コロナ後の商業施設の姿は、いまだ見えていない。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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