新築マンション、発売絞っても高値維持の限界 2020年の発売戸数は歴史的な低水準に落ち込む

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発注前ならば工事を後ろ倒しにして調整することができるが、契約済みの工事をデベロッパーの都合で凍結することは難しい。国土交通省によれば、首都圏では2018年に5.5万戸、2019年に5.9万戸、今年上期だけでも2.6万戸のマンションが新たに着工されている。

コロナがなければ前年と同水準の発売が行われていたと仮定すると、上期に発売ができなかった6000戸は下期に回される。需給バランスを維持するためにはおいそれと発売戸数を増やすことができないため、今度は下期に発売予定だった6000戸が玉突きで来期に回され、どこかで吸収せざるをえない。

分譲予定の物件を投資家向けの1棟売りに切り替えて滞留物件をさばく選択肢もあるが、大手デベロッパーが手がけるファミリータイプや高級物件は投資家の射程に入りづらく、運良く買い手が見つかる保証はない。

勝負は秋商戦

デベロッパー各社は、「6月以降モデルルームへの客足は復調してきた」と口をそろえるが、先行きには不透明感が漂う。

マンション調査会社の東京カンテイの髙橋雅之主任研究員は、「感染拡大の第1波は発売の減少につながったが、感染収束が長引けば客の購入マインドや予算に響いてくるだろう。大幅な値下げに発展する可能性は低いが、需要を喚起するための価格調整やオプションの付与などは考えられる」と指摘する。

コロナ前から支給額が決まっていた企業が多かった夏の賞与とは異なり、冬の賞与ではコロナ禍が直撃した業績が加味されることも、住宅購入意欲や予算に響きそうだ。

新築との比較対象である中古マンションの動向も無視できない。一般的に、売り出しから3ヵ月を経過して成約に至らなければ、価格の見直しが行われる。東日本不動産流通機構によれば、6月時点での中古の成約価格はコロナ前と同水準だった。

緊急事態宣言解除後もひとまずコロナ前の相場で売り出して客の反応を見る動きが多く、コロナ禍が本格的に価格に織り込まれるのは秋口からと見られる。新築に必ずしもこだわらない客が増える中、中古の割安感が強まれば新築の値付けも意識せざるを得ない。

マンション業界にとって7~8月は客足が低調な「夏枯れ」の時期であり、デベロッパーの視線は9月以降へと向けられている。ゴールデンウィークというかき入れ時を潰された各社が巻き返しを図れるかだけでなく、柔軟な需給調整がとれなくなった状況で販売価格がどう推移していくのかを見る意味でも、秋商戦は例年にも増して重要になっている。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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