父と母、それぞれの教育
石橋さんは、大変でシリアスな仕事を“あえて”選んできた。大学卒業後、最初に勤務した日本長期信用銀行では不良債権処理に携わり、シティバンクで培った経営者との信頼関係は今の仕事にもつながる。産業再生機構時代は大変な激務で、妻の薫さんは「(過労で)死んでしまうのでは」と心配したという。午前2時に帰宅して夕食を取り、4時間後の6時には出社する日々だったからだ。
その後は独立してコンサルティング会社を設立。組織の内部にどっぷり入り、経営改革のために汗をかくのが好きだ。今回の記事のテーマが、「グローバル教育論」と言うと、「ずっと国内で働いてきた私がですか」と戸惑う。初の海外旅行は新婚旅行で、英語が流暢な薫さんがすべてを手配。到着したバリで「日本人がいない!」と石橋さんが興奮したことは、夫婦の微笑ましい思い出になっている。
人の真価が現れる修羅場にこそ、多くの学びがある――。そんな一風変わった仕事観を持つ夫を、妻はゆったり構えて支える。「何も大変な仕事ばかり選ばなくても、と思わなくもないですが、本人がしたいことをやっているほうがいいですから」。ちなみに薫さんは6歳年下で長銀時代に社内結婚をした。「まさかこんなにドメスティックな人と結婚するなんて予想しませんでした。でも、すごく気楽に楽しく話ができました」と当時を振り返る。
都会育ちで海外経験豊富な妻。地方育ちできつい現場を好む夫。対照的だが子育てに関しては上手にバランスを取ってきた。当初「近所の公立中学校でいいのでは?」と考えていた石橋さん。薫さんは「東京は選択肢がたくさんあるよ」と私立受験も考えてみることを提案した。自身が帰国子女として高校からICUに通い「とても楽しかった」経験があったから、「環境を選ぶことは大切」と思っていた。中学受験をするかどうか、最終決定は本人の意思に任せ、結果は前述のとおりだ。
手作り好きで愛情あふれる母に育てられた優秀な兄弟は、多忙な父を、やっぱり応援しているようだ。あるとき、国会事故調の様子がテレビのニュースに映った。「参考人の頭部から生えた耳」を見た次男は「あ、これは、お父さんの耳だ!」と気づいたという。
そんな父とのかかわりを息子さんはやっぱり楽しんでいるのだろう。誕生日のプレゼントは何がいいか、と尋ねられた長男は、「一緒に石を掘りに行きたい」と答えた。これまでも家族で、秩父や鴨川に鉱物採集に、北海道にアンモナイトの化石採集に出掛けた。
長男と一緒に石を拾いに行ったときのこと。「石って外から見るとこんなふうに光っていないのです。小さなウサギのふんみたいなものを見つけて『あった!』と目当ての石がわかっちゃうから、すごいですね」。息子の得意分野について話す石橋さんの表情は、ごく普通のお父さんだ。
(撮影:今井康一)
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