彼岸、無、来世「故人」が書き残した本気の死後観 死と向き合った彼らはネットに言葉を連ねた

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20代の終わりに実家から抜け出して関西で一人暮らしを始めた30代男性のFさんは、歯科技工士として独り立ちすることを目指して就職先で奮闘しながらブログを書いていた。しかし、半年後に周囲の期待や目標の自己像とのギャップに耐えられなくなり、心が折れて自殺を志向するようになる。2013年に「終わり」と題された最終投稿に至るまで、死後に関するいくつかの記述を残した。

「死後は無であって欲しいと願っている。もし死後に天国と地獄があって、そこで自我を保ったまま過ごさなければならいないとしたら、それこそ地獄である」

「死後の世界はあるのだろうか?

俺はないと思っている。

ただ、俺がないと思っているのは天国や地獄といった漠然とした世界だ。

でも、輪廻転生はあると思っている。生命体は死ねば何かに生まれ変わると信じている。実際に前世の記憶を持っている人の事例も世界中であるし、霊なども目撃者が多すぎるし、不可思議な現象も多い。無いと言い切るには多すぎる。そういうのが輪廻に関連していると思っている」

「結論として、死んでも何かに生まれ変わるんじゃないかと思っている。

その生きた人生によって次に生まれ変わるものが変わる。精一杯苦しみの中を戦って生きぬいた人は次は自分の望む人生を送れるのかもしれない」

オリジナルの死後観の模索も

そのほか、自らの信仰を深めて最期を迎えるケースや、死期を悟ったときに特定の宗教に入るというケースもある。ただ、とりわけ日本語のサイトでは、オリジナルの死後観を模索する割合が増えている印象を受ける。根拠となる背景はいくつか思い浮かぶ。

1つは、インターネットの普及と終末期医療の現場の変化が同時期に起きたことだ。日本でインターネットが普及してホームページブームが起きた1990年代半ばは、国内の医療現場でがんの告知が急激に進んだ時期でもある。それまでは真の病名を家族だけに伝えて、本人には告知を避けたり偽の病名で通したりすることが普通に行われていた。

また、この時期に疼痛を抑えるペインコントロールの技術が劇的に向上したことで、亡くなる直前まで思考する余裕が持てるようになったと分析する医師や宗教家もいる。

つまり、日本では、個人で好きに情報発信できる場ができたと同時に、病気や死と向き合う環境が整ったわけだ。ちなみにアメリカではネットの普及はわずかに先行した程度だが、がんの告知運動は1960年代から起きている。

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