目をつけられた「TikTok」何がマズかったのか 国際化しても、中国共産党の影は消せない
「私には、何が良くて何が悪いのか、何が高尚で何が低俗なのかを正確に判断することはできない」と、チャン氏は2016年に中国のビジネス誌『財新』に語っている。
チャン氏は、このような立場をとれば中国の政治に巻き込まれずにすむと考えたのかもしれない。ところが2018年、こうしたテクノロジー中心路線のリスクが浮き彫りとなる。バイトダンスの最も古いサービスの1つでもあるジョーク共有アプリ「内涵段子(ネイハン・ディアンチー)」が、下品な内容を拡散したとして中国当局から閉鎖させられたのだ。
「当社は長年にわたってテクノロジーの役割を重視するあまり、テクノロジーは社会主義を核とする価値観によって導かれなければならないという認識が欠けていた」。チャンは公開書簡でこのように謝罪した。
バイトダンスの人気ニュースアプリ「今日頭条(トウティアオ)」もまた、低俗コンテンツで取り締まりを受けた。これを受けて今日頭条は、フィードのトップに習近平氏関連の記事が一段と多く表示されるようにした。
手本は、あのファーウェイ
チャン氏は世界でうまく立ち回る秘訣を探ろうと、海外で急成長を遂げていた、ある中国企業を研究したという。
華為技術(ファーウェイ)だ。
おそらくチャン氏は事態がこのように展開するとは考えていなかっただろうが、結果的にみれば、ファーウェイを研究対象とした彼の選択には先見の明があった。トランプ政権は、通信機器やスマートフォンを製造する、この巨大な中国企業(ファーウェイ)を執拗に弱体化させようとしている。同社製品を用いた中国政府のスパイ活動を危惧するホワイトハウス高官は、ファーウェイを「国家安全保障上の脅威」と呼んでいる。
チャン氏がリップシンク(口パク)動画をシェアする中国製アプリ「Musical.ly(ミュージカリー)」の買収に動いていた頃、同氏の頭は事業を国際的に成長させることでいっぱいだった。このアプリはアメリカとヨーロッパで成功を収めている。バイトダンスは2017年、ミュージカリーを約10億ドルで買収した。ミュージカリーはその後、ティックトックに統合され、これが欧米進出への足がかりとなる形で、ティックトックは大躍進を遂げた。
複数の消息筋によると、2社は事前に対米外国投資委員会(CFIUS)に接触し、承認を得ようとしなかった。この判断が、後にバイトダンスを悩ますことになる。
CFIUSは通常、アメリカ企業に対する国外からの投資について国家安全保障上のリスクがないかどうかを評価する。が、同委員会は、外国企業間の合併や買収であっても、これらの企業がアメリカで大規模な事業を展開している場合には管轄権を有すると主張している。