目をつけられた「TikTok」何がマズかったのか 国際化しても、中国共産党の影は消せない
動画アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営する中国人起業家は、IT業界で最も危うい「溝」を渡るにあたって周到な準備を整えた。政府の厳しい管理下に置かれた中国のインターネットは、この溝によって世界とは切り離された状態にある。
この起業家は、アプリの利用者が中国共産党の検閲の対象にならないよう、ティックトックを中国で利用できないようにした。利用者のデータはバージニア州とシンガポールに保管した。幹部にはアメリカ人を起用し、アメリカ議会で自社の利益を守るべくワシントンではロビイストを雇った。
しかし結局のところ、このような対策はどれも意味をなさなかった。ティックトックはアメリカのトランプ大統領からの激しい圧力にさらされ、マイクロソフトに事業を売却する交渉を進めている。トランプ氏はマイクロソフトのティックトック買収にゴーサインを出した。米中の対立が深まる中、両国を隔てる「デジタルの壁」はこれまでになく高いものとなっている。
ほかの中国企業も戦略の見直しを迫られる
今回、障壁を築く動きを見せているのは中国ではなく、アメリカだ。両国の関係悪化は、米中の企業にとってさらに制約の多い時代の到来を予感させる。
ティックトックを運営する中国のソーシャルメディア大手、北京字節跳動科技(バイトダンス)は、中国で初めて真にグローバルな成功を収めたインターネット企業であり、今年で創立8年目を迎える。創業者の張一鳴(チャン・イーミン)氏(37)は、世界的なリーチを持つ企業でなければ技術的な優位性を保つことができないと考え、当初から海外進出を推進してきた。
短編のバイラル動画をシェアするアプリであるにもかかわらず政治的に厳しい視線を向けられるというハンデを背負いながらも、ティックトックはアメリカのティーンエイジャーの間で大きな反響を呼んだ。
一方、自国民や自国企業に対する中国共産党の絶対的な支配力は、習近平国家主席の下でさらに強化されている。つまりティックトックがどれだけ中国人以外の幹部を採用しようとも、利用者データの引き渡しやコンテンツの操作を求める中国政府の圧力に屈するのではないかという疑念が晴れることはない。
中国のほかのIT企業に対しても、すでに同様の疑念が生じている。ティックトックの命運が一気に暗転したことで、こうした企業も海外戦略の見直しが避けられなくなる可能性がある。