台湾「学生の乱」の陰にTPP巡る米中綱引き 2つの大国の狭間で亀裂が深まる台湾の現状

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日本の総合商社の台湾現地法人トップは「ECFAの関税引き下げ前倒し措置が実施されて3年になるが、見るべき成果はない。(中国側の開放が進む)金融業界を除けば、ほとんどの経営者は無関心なのではないか」と言う。

では、政府・与党はなぜ、そこまでサービス貿易協定に前のめりになったのか。

台湾大学の鄭秀玲・経済学部長は、馬総統の焦りを指摘する

反対運動の火付け役の一人である鄭秀玲・台湾大学経済学部長は「馬英九総統には、今年秋に北京でのAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議で習近平・中国国家主席との会談を実現したいという焦りがあった」と見る。加えて、台湾政府には交渉を急ぐ強力な理由が存在した。

鴻海を伴い米国詣で

話は半年ほど前にさかのぼる。昨年11月、米国のワシントンDCを台湾のVIPが大挙して訪問した。引率者は台湾の経済外交を長年仕切ってきた、蕭万長・前副総統。同行したのは、鴻海精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)董事長を筆頭とする、台湾財界の重鎮たちだ。

訪米の目的は、台湾のTPP(環太平洋経済連携協定)加入への意欲を米国側にアピールすることだった。「国務省やUSTR(米国通商代表部)の高官からは、台湾のTPP入りを歓迎するとのコメントがあった」(同行筋)。

現地でのセミナーで蕭氏は台湾のTPP加入への意欲を強調するとともに「米国が中国もTPPへ招き入れることを期待する」と話し、中国への気配りも欠かさなかった。

TPPは米国主導の対中包囲網のように見られがちだ。だが究極的には、米国はTPPをテコにして、中国に市場の一段の開放や知的財産権の保護を進めさせることを狙っている。台湾にTPP加入を働きかけるのは、いわば中国への誘い水とみられる。

一方、台湾との統一を国是とする中国は、ECFAを台湾との経済一体化の手段と位置づけている。それだけに台湾が他国とFTAを結ぶことには敏感で、その交渉にしばしば横やりを入れてきた。

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