苦境に立つ地方公共交通は生き残れるのか バスや鉄道などを運行する両備グループ代表に聞く

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公共交通は不可欠な事業だからコロナ禍でも運行を維持してくださいと国は言うが、「外に出るな」「移動するな」という中で運行を続けて発生する膨大な赤字をどう補うのか。事業者に責任を押し付けて救済の手をさしのべないというのは悲劇的な問題だ。

こじま・みつのぶ/1945年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、銀行勤務を経て1973年に両備運輸入社。両備バス(現両備ホールディングス)社長就任時にグループ代表にも就任。2011年から両備グループ代表兼CEO。写真は2018年(記者撮影)

もともと経営が厳しい事業者が大半で、さらにコロナ禍で利用者の回復が見込めない状況においては、もうこれまでの制度では維持できない。

国として地域公共交通をどう維持していくのかを判断しなければならない時期に来ている。付け焼き刃やパッチワークのような対策では乗り切れなくなっていると認識すべきだ。

――地方公共交通の維持に向けた抜本策として何が必要でしょうか。

私が以前から主張しているのは、まず地域公共交通に関する法整備をきっちりし直すべきだということ。

ずっと規制緩和、競争政策で来ているが、需要が低減しているのに供給側だけ競争しているという形は好ましくない。交通事業者の経営が苦しい中では健全な運営ができず、路線を維持できなくなってしまう。地域公共交通活性化法や交通政策基本法といった法律はあるが、道路運送法などは競争政策のまま。継ぎ当てではなく、(法整備を)抜本的に改善しなければいけない。

自治体には責務がある

2番目は財源の確保。やはり欧米並みに交通維持のための税金などを新設すべきだ。(事業者に)赤字が出てから少しずつ補填していくのではなく、しっかりした制度改革をして財源を確保しないと、これから地方はどんどん人口が減っていく中で持ちこたえられない。

コロナ後の「新常態」とどのように向き合っていくべきなのか。「週刊東洋経済プラス」では、経営者やスペシャリストのインタビューを連載中です。(画像をクリックすると一覧ページにジャンプします)

そしてもう1つは「乗って残そう」。どんなに法律や財源があっても、利用者のいない乗り物を走らせるわけにはいかない。欧米は移動だけでなく、都市の安全や環境問題市民の健康問題などを総合的に考えて、マイカー通勤に課税するなど、あの手この手で公共交通を利用する社会を作り上げている。

移動権や交通権は憲法で保障された「文化的な生活」に含まれていると私は解釈している。国や地方自治体が、地方生活交通に対する責務を持つということをしっかり自覚すべきだ。

「週刊東洋経済プラス」のインタビュー拡大版では、「公共交通が健全な事業になるために必要なこと」「国の交通政策の問題点」などについても語っている。
小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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