日本銀行、「中銀デジタル通貨」発行への本気度 新設した組織のグループ長に異例の配置

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日銀は現時点で発行の計画はないとしているものの、デジタル通貨をめぐる動きは非常に早い。

中国ではすでにデジタル人民元の試験運用が始められているほか、ヨーロッパやアメリカでも発行の議論が活発化している。世界的な動きを踏まえ、発行が必要になった際に対応できるようにするため、日銀はギアチェンジして検討のスピードを引き上げたわけだ。

CBDCの議論が盛り上がるきっかけは、2019年6月にフェイスブックが発表したデジタル通貨「リブラ」にあることは間違いない。「世界中で、瞬時に、安価で送金できる環境を整える」とうたったが、通貨発行権という国の“聖域”に踏み込んだことから、各国政府の目の敵にされた。

当初、複数の法定通貨に裏付けされた1つの通貨を目指していたが、現在は各国通貨にひもづいた複数のリブラを発行する形になっている。電子マネーに近い形となっており、「シンプルでグローバルな通貨と金融インフラになる」という当初の目論見は頓挫したといえる。

注目を集める「ロードマップ」の中身

ただ、リブラが残したものもある。リブラ構想は各国中央銀行に国際送金の非効率性を改めて認識させた。結果的に、2020年2月にサウジアラビアで行われたG20(20カ国財務相・中央銀行総裁会議)の声明に、「送金を含む、より安価で、迅速な資金移動を促進するよう、グローバルなクロスボーダー決済を改善する必要性を認識する」と盛り込まれた。

コロナ禍の金融政策で難しい舵取りを強いられる日本銀行の黒田東彦総裁。一方で、デジタル通貨の検討で日本が後れを取るわけにはいかない(写真:今井康一)

この解決策になるうるのがCBDCだ。実際に発行している国はまだ無いため、ゼロから国際決済に適した形を導入できる可能性があるからだ。

従来、CBDCの議論は国内利用を想定しており、先進国同士で急を要する問題ではなかった。だが、国際的な資金移動という議論が活発化したことで、各国中央銀行も動かざるをえなくなった。

G20の声明文では、主要国の金融当局で構成されるFSB(金融安定理事会)に対し、2020年10月までに国際送金のロードマップ作成を求めるとしている。それがどんな内容になるのかが金融関係者の間で注目されている。新たな方向性が出てくることで、今後、CBDCの議論や発行に向けた世界的な動きは一段とスピードを増すはずだ。

藤原 宏成 東洋経済 記者

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ふじわら ひろなる / Hironaru Fujiwara

1994年生まれ、静岡県浜松市出身。2017年、早稲田大学商学部卒、東洋経済新報社入社。学生時代は、ゼミで金融、サークルで広告を研究。銀行など金融業界を担当。

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