李登輝「台湾に生まれた悲哀」で貫いた奉仕人生 どんなに大変でも台湾の為に次の世代の為に

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1997年に従来中国史が中心だった歴史教育を台湾史重視に変えたほか、中国の一地方政府として存在していた台湾省の凍結を決定。1999年には中台関係を「特殊な国と国の関係」であると提起するなど、台湾アイデンティティーが高まる方向に李総統の政策は進んだ。2000年の総統選挙では後継者として国民党から連戦氏を出馬させたが、民進党の陳水扁氏に敗れ、李総統は国民党主席を辞任した。初の政権交代が行われ、結果的には台湾の民主主義の一段の定着につながった。

退任後はより台湾意識を強調する志向を強め、台湾独立志向の政党「台湾団結連盟」の創設や活動にかかわったことなどから国民党籍を剥奪された。2008~2016年の対中融和政策をとった国民党の馬英九政権に批判的だったのに対し、2012年以降は民進党の蔡英文氏を支持した。総統在任中に選挙のために不正な資金流用や反社会勢力と関わりをもったことなどが疑われて批判の声もあるが、外来政権に支配されてきた「台湾人に生まれた悲哀」を繰り返さないためにという信念を持ち続け、そのための基盤ともいえる民主主義と台湾アイデンティティーの強化を求め続けた政治家だった。

民主主義は完全に定着した

2020年までに台湾では7回の総統選挙が行われ、3回の政権交代がスムーズに実施された。民主主義は完全に定着したといえる。多くの台湾の人々は、自分たちは台湾という共同体の一員だという台湾アイデンティティーをもち、4年に1回行われる総統選挙で投票し、共同体の一員という自覚と自信を深め続けている。

李登輝政権誕生後に生まれた筆者のような20代を中心とした若者世代は「天然独(生まれつきの独立派)」とも呼ばれ、台湾がひとつの国家であることが自然のように考える世代も出て来た。今後、経済発展や軍事力増強を背景に中国の台湾に対する統一攻勢は強まるかもしれない。ただ李登輝氏が思い描いていた将来の方向性は台湾で着実に引き継がれている。

劉 彦甫 東洋経済 記者

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りゅう いぇんふ / Yenfu LIU

解説部記者。台湾・中台関係を中心に国際政治やマクロ経済が専門。台湾台北市生まれの客家系。長崎県立佐世保南高校、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、修士(ジャーナリズム)。日本の台湾認識・言説の研究者でもある。日本台湾教育支援研究者ネットワーク(SNET台湾)特別研究員。ピアノや旅行、アニメが好き。

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