「80歳まで雇用延長」が迫るキャリア戦略の激変 雇用年齢上限の引き上げは年功序列を崩すか

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こうした動きが広まっていくと、年功序列の維持は不可能となる。50代、60代、70代の人が年功だけで高い給与を取り続けていたら、会社全体としての人件費が増えすぎてしまうので、年齢と役職・給与を切り離さなければ組織が維持できなくなる。

その結果、多くの会社ではジョブ型雇用を導入していくことになるだろう。そうすると、会社の中での働き方が一変する。50代前半の社長が命令を出し、それを60代の課長や30代の部長が実行する事態が起こりうる。

30代の部長の部下が60代の課長、70代の社員という場合も現れる。当然、50代前半の社長は60代の課長の何倍もの給与をもらい、30代の部長は70代の平社員の倍の給与をもらうケースも出てくる。

個人のキャリア戦略はどうあるべきか

問題は、年功序列意識を小学校のときから刷り込まれた世代が、こうした人事の劇的変化に耐えられるかである。これについては、一人ひとりが自分の頭の中を切り替えるしかない。

これからの世の中では、ジョブ型雇用で社員各自の持つスキルが明確になり、転職は容易になる。そうなれば、個人のキャリア形成も1つの会社の中にとどまる必要がなくなる。転職を重ねて、スキルを獲得し、ポジションを上げていくことが普通になる。中には、他社での経験を積んで、スキルアップして元の会社に出戻ってくる人も現れるだろう。

こうしたことを可能とするためには、会社の退職金制度も変更する必要がある。今までのような、勤続20年、25年で突然、退職金の支給額が増えるような制度(つまり、20年、25年勤めることを奨励する制度)ではなく、1年当たり年収の20%が付くというような形の、転職をしても不利にならない制度に変えていくべきである。

こうした制度が整備されるという前提だが、個人としては3つの準備をしておく必要がある。第1に、自分のポジションより1つ高いポジションのジョブ・ディスクリプションを目指して、つねにスキルを高めていく。

第2に、いつも自分のキャリアのリスク管理として、転職市場でどのようなチャンスがあるのか、自分が市場でどのように評価されているのか、また、新たなスキルを身につける必要がないかについて、アンテナを立てておく。そのためには、ヘッドハンターとの人脈を築いておくことも大事であろう。

第3には、転職に向けての心の準備である。多くの人は、どうしても転職に臆病になってしまう。せっかくいい仕事の紹介が来ても踏み切れない。どうしようかと迷っているうちに、ほかの人にその仕事を奪われる。

こうしたことがないよう、つねに情報収集をし、自分のスキルを見極め、いざチャンスが来たときには、即座に対応できるように心の準備をしておくことも大事である。

植田 統 国際経営コンサルタント、弁護士、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授

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うえだ おさむ / Osamu Ueda

1957年東京都生まれ。東京大学法学部を卒後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。ダートマス大学エイモスタックスクールにてMBA取得。その後、外資系コンサルティング会社ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(現PWCストラテジー)を経て、外資系データベース会社レクシスネクシス・ジャパン代表取締役社長。そのかたわら大学ロースクール夜間コースに通い司法試験合格。外資系企業再生コンサルティング会社アリックスパートナーズでJAL、ライブドアの再生に携わる。2010年弁護士開業。14年に独立し、青山東京法律事務所を開設。 近著は『2040年 「仕事とキャリア」年表』(三笠書房)。

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