台湾「デジタル大臣」が生んだ政治の新スタイル タン氏が提唱する「官民連携」の新たな姿とは
公務員といえば「保守的」「慎重」というイメージが強いが、タン氏が提唱する作業を通じて、彼らもイノベーションへの想像力を発揮するようになってきた。
公務員には「他者の成功体験に学び、模倣することに長ける」という特性があり、政府によるイノベーションが最初から大規模になることはない。言い方を変えれば、前例があればスムーズに事が運ぶということだ。市民の意見を取り入れ、大幅に改善された電子納税システムの成功例は、政府機関が民間と協力するためのハードルを下げたと言える。
その一方、タン氏は「私が出会う公務員は、誰もがイノベーションに積極的だ。私たちのところに来るのはチャンスを待っていた人たちなのだ。革新的でない人には会ったことはない」とも語る。
道を変えても目的地は変わらない
PDISの運営において、タン氏は「市民の知恵こそが至上である」という原則を守り続けている。PDIS内に階級はなく、1人ひとりが異なる専門性を持つプロとして全員が平等に扱われる。
誰か1人に決定権があるわけではなく、何をするにしてもタン氏はまず全員の意見を聞く。そして、大まかな方針のみを決め、細かい手順は随時修正していくやり方でさまざまなプロジェクトを進めている。
このPDIS方式は、従来の公共政策で使われがちな「1つひとつの手順を踏んで事を進め、その進度を厳しくチェックする」という方法から見ると、まったく正反対の考え方だと言える。そのため、「朝礼暮改」「リーダーシップに欠ける」などという批判を受けることも多かった。
これに対し、タン氏は「朝令暮改とは、車の運転に例えるとバックさせたり、外出自体をキャンセルするようなもの。しかし私たちのやり方は『前方の渋滞に気づいたら、別のルートに切り替える』ということだ。道を変えるだけで目的地は変わらない」と反論する。
この新しいやり方で台湾は未来に前進しようとしている。だが、タン氏が退任したら、台湾の政治はこの方向性を維持できるのだろうか。この問いに対し、タン氏は「(オープンガバメントと官民連携は)すでに浸透している。PO制度も公共政策参加プラットフォームも、核心部分はすでに出来上がっていて、あとはそこを押さえてみんなが実践するだけ」と答える。そして、オープンイノベーションが定着していけば、「私という個人がここにいるかどうかは、重要なことではない」と言う。
神童、天才と言われながらも、自身の考えが他人より優れていると考えたことはないというタン氏。彼女の望みは、すべての人が自分の意見や知識を惜しみなくシェアし、誠実に話し合いのできるプラットフォームを作ること。誰もが認める天才がもっとも忌避するのは、孤独なのである。〈台湾『今周刊』2020年7月8日〉
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