台湾「デジタル大臣」が生んだ政治の新スタイル タン氏が提唱する「官民連携」の新たな姿とは
2017年に始まったPOによる成果のうち、タン氏が最も誇らしく思うのは、2017年5月の納税時期に起きた電子納税システム炎上事件だ。きっかけは市民によるFacebookへの書き込みだった。当時、財政部(財務省に相当)が提供していた電子納税用のアプリケーションは使い勝手が悪く、Mac OSにも対応していなかった。
ある市民がMacユーザーはどう納税すればよいのか問い合わせたところ、財務部は「Windowsがインストールされているパソコンを借りて納税してほしい」と回答した。事の次第をネット上に書き込むと、同じ不満を持つネットユーザーから財政部への批判が殺到し、炎上した。
成功例の積み重ねでイノベーション強化
炎上するや否や、財務部のPOはすぐに書き込みにコメントした。そして、不満の声を上げたネットユーザーらを招き、対策会議を開いた。その会議の意見を基に、財政部と共に電子納税システムの改善が図られた。
タン氏は「財政部からのPOがコメントした途端、流れが変わった。80%のネットユーザーが(システム改善のための)具体的な提案を出し、残る20%のユーザーは財政部長(大臣に相当)の退任を求めたが、そんな意見は見向きはされなかった。最初の書き込みをした人は単なる財務部批判ではなく、アイデアがあった。伝統的な市民参画のスタイルを打ち破り、完成した電子納税システムの満足度は90%以上だ」と振り返る。
「自身の意見が政策に反映できる」と多くの市民が実感できれば、民間発のアイディアは尽きることなく湧いてくるはずだとタン氏は考える。延べ2000万人以上が利用したマスクマップも同じで、これらの成功例を積み重ね、台湾は市民の手による公共政策イノベーションの力をさらに強めることになるだろう。
中学2年生で学校を離れて自主学習を始めて以来、タン氏はある1つのテーマを研究し続けてきた。それは、2人の間で行われるインタラクティブな対話をいかにして20人、200人、1000人、1万人単位へと広げていくかということだ。これを重んじるタン氏は、大臣に就任後も学校での講演をすべて受けている。すでに100回以上になる。
講演を取り仕切るPDISメンバーの黄子維氏は「タン氏の思いはとてもシンプルで、若い人にもっと政府の運営や実務について知る機会をもってほしいと願っている。もし彼らが(タン氏との)交流の中で政府に興味を持ってくれたら、それはイノベーションの種を未来へまいたことになる」と話す。
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