お題目化した「地球温暖化やLGBT」は不毛だ ベニオフCEOが悩む「高層ビルとホームレス」

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しかし、これだけ格差が広がってしまったアメリカを見ると、もはや「ノブレス・オブリージュ」の発想を持ち込まなければ、バランスをとることはできなくなるでしょう。そして、格差が固定化しつつある日本も、いずれそうなってゆくのではないかと僕は思っています。

格差が固定しつつある日本で今後起きること

東京で起業している20~30代の若者たちと話すと、みんな本当に優秀で、しかも、多くがイケメンか美女なんですよね。一流大学を出ていて、親は弁護士や医者や大学の先生。選ばれたエリートみたいなものです。一方、地方にいくと、その対極にある若者たちがいて、二極化のすごさを感じます。

これまで日本で「ノブレス・オブリージュ」が広まってこなかったのは、中流社会だったからです。戦後の日本には戦前の貴族社会も解体されて、階層構造はなくなっていた。みんながサラリーマンで、妻と子2人という形に収斂してもいました。ところが、今はそれが崩壊してしまった。

今の日本社会には、伸びゆく者と見捨てられる者の2つに分かれつつあります。そして、優秀で、何でもやってみたいというアントレプレナーシップを持つ人の足を、日本人はすぐに引っ張ろうとする。その一方で、落ちこぼれた人のことは自己責任論で切り捨ててしまう。なんだかどちらも極端です。

今の日本でベニオフのようなことを言えば、「じゃあ、セールスフォースを解散して、そのカネを貧乏人に配れよ」というような暴論が生まれがちです。でも、そういうことではない。

伸びゆく人には伸びてもらって、社会をよりよく引っ張る存在になってもらい、落ちこぼれる人は救って守ってあげる。そういう二面作戦でやっていくしかないのではないかと僕は考えています。

ただし、同じ起業家でも、1970年代生まれで新自由主義の塊のような成長一辺倒の世代と、ミレニアム以降の若い世代とでは、かなり感覚が違ってきてもいますね。

今の20~30代で優秀な起業家は「社会に対してバリューを与える」というようなことをよく言っています。「成長できなくても、社会貢献できればよいのです」とさえ語る起業家もいる。若い人にとっては、「バリュー」「貢献」「社会のために」といったような言葉は決して無縁のものではないわけです。

世代的な変化の現れのように感じますし、今後の日本に「ノブレス・オブリージュ」の感覚が芽生える予兆なのかもしれません。

(中編に続く)
[構成:泉美木蘭]

佐々木 俊尚 作家・ジャーナリスト

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ささき・としなお / Toshinao Sasaki

1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。毎日新聞記者、『月刊アスキー』編集部を経て、2003年よりフリージャーナリストとして活躍。ITから政治、経済、社会まで、幅広い分野で発言を続ける。最近は、東京、軽井沢、福井の3拠点で、ミニマリストとしての暮らしを実践。『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『そして、暮らしは共同体になる。』(アノニマ・スタジオ)、『時間とテクノロジー』(光文社)など著書多数。

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