もっともトランプさんと金正恩氏の間では、「お前が両方に対して楽観的な情報を流したから、2月のハノイ会談が決裂したんじゃないか!」てな思いがあったものと拝察する。何しろ金正恩委員長は、寧辺の核施設を爆破したことで、「さあ、これで経済制裁が解除される!」と勘違いしていたというから、まことにお気の毒である。その後、北朝鮮が韓国に対して「怒り心頭」モードに転じたことには、何の不思議もない。
暴露本のダメージはトランプ陣営より各国外交関係者に
少しだけ個人的所見を挟ませていただくと、いやしくもアメリカの国家安全保障担当補佐官ともあろうものが、ほんの1年前の国際政治の内幕をここまでばらしてしまって良いものだろうか。韓国の外交当局にとっては大打撃であろうし、北朝鮮も相当に困っているはずである。
そんなことなので、本書によるダメージはむしろ各国の外交関係者にとって重いものがあり、アメリカ国内政治に対する影響力は軽微なんじゃないかと思う。トランプ嫌いの人たちは「ああ、やっぱりな」と言うだろうし、トランプ支持者はそもそもそんな本は読まないだろう。
察するにボルトン氏の立場になってみると、過去に多くの共和党政権に仕えてきた身ではあるけれども、さすがにこの次に政権に仕える機会があるとは考えにくい。なおかつ、目の前に著作権料をドンと積まれた日には(約2億円と言われている)、抗しがたい魅力があったことだろう。トランプ氏に対する私憤、もしくは「こんな大統領を再選させてはならない」という公憤は、執筆動機としては後付けだったんじゃないだろうか。
それにしても、トランプさんくらい「暴露本」が出る大統領はめずらしい。2018年1月に登場したマイケル・ウォルフ著“Fire and Fury”(邦題『炎と怒り』:早川書房)は、就任1年後の大統領に対し、皆がうすうす感づいていたことをぶっちゃけてしまった。すなわち、下記のような事実である。
「トランプ陣営ではドナルド氏本人も含めて、誰もが選挙戦では敗北を確信していた」
「トランプ氏はそれでもオッケーで、なぜなら彼の目標は『世界でもっとも有名な男』になって、自分のビジネスに役立てることであったから」
「選挙期間中に、マイケル・フリン補佐官がロシアとの不法行為を怖れなかった理由は、『だって、どうせ負けるんだから』であった」
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