日本の中高生だけが柔道で亡くなる驚きの実態 強豪他国はゼロなのに日本は「121人死亡」
小林さんが2010年に語学に堪能な友人らの協力を得て調べた結果、フランス、ドイツ、イギリス、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、イタリアなどすべての国が全世代で死亡者はゼロだった。
海外の柔道強豪国の柔道連盟やスポーツ機関、病院など1件1件メールを送り、粘り強く問い合わせた。なかでもフランスは柔道人口が60万人と日本の4倍以上に上るが、重篤な事故や事件は起きていない。
小林さんは調べた事実をすぐさま文部科学省に報告した。
「ほかの国で柔道事故は起きていません。日本は異常なんです」
ところが、文科省の担当者には「そんなわけありません」と言って信じてもらえなかったそうだ。日本でこれだけ事故が起きているのに、もっと柔道人口の多い他国でゼロなわけがない――そんな受け止めだったのだろう。
20数年間で100人以上が学校で柔道をしていて命を失っていたのだから、無理はないかもしれない。文科省が多額の調査費を投じ各国の柔道事故件数を調査したのは、それから3年後のことだった。
2013年。調査結果は、中学校での武道必修化に伴い事故実態を調べる「調査研究協力者会議」で報告された。
「他国の柔道による死亡事故を、1つも見つけられませんでした」
調査を請け負った民間機関の担当者は全柔連の理事など関係者に、深々と頭を下げたという。
海外主要国と日本、柔道指導の「決定的な違い」
なぜ、他国はゼロで日本だけ121人もの命を失ってきたのだろうか。
小林さんによると、他国には柔道を安全に指導するための施策が構築されているという。例えば、イギリスでは同国柔道連盟が作成した「指導者のための児童保護プログラム“Safelandings”」にのっとって指導されている。
そこには、技術的な正当性を欠く過度の激しい乱取りや、成長期にある選手の身体能力の未熟さを軽視した過度の訓練、罰としての不適切なトレーニング等々は「すべて虐待である」と明記されている。さらには、女子に技を教えるときには「触りますね」「こうしますね」と事前に説明し、了解を得てから始める。子どもへの人権にきちんと配慮されている。
その詳しい内容は、被害者の会のホームページに掲載されている。小林さんが全文和訳したものだ。
そしてイギリス以外の強豪国にも「同様のプログラムがある」(小林さん)という。つまり、安全に指導できるコーチの育成が確立されているのだ。
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