「中国を武力攻撃するレッドラインはない」 明らかになった尖閣を巡るオバマ米大統領の真意

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さらに、「安倍首相に直接述べたが、この問題について、対話をせずに、事態がエスカレートし続けることは重大な間違いだということだ。日本と中国は信頼醸成措置を取るべきだ。そして、できる限りのことを外交的に、私たちも協力していきたいと思っている」と述べた。

オバマ政権は中国に対し、お互いを尊重する協調主義的な「関与政策」を推し進めている。その一方で、アジア太平洋地域で海洋進出拡大を続ける中国を米軍の強いプレゼンスでけん制する「抑止政策」 を、不測の事態に備えたリスクヘッジ(リスク回避)策として採用している。

対する日本。日本は、中国の強圧的な外交攻勢と軍事的な脅威に直面しているため、米国に「抑止政策」の強化を期待している。つまり、東アジアへのリバランス(再均衡)戦略を強化することを求めている。しかし、その思いとは裏腹に、最近の米国は「関与政策」を通じた米中の蜜月化が目立つ。2020年代前半には中国の国内総生産 (GDP)が米国を抜き、世界最大の経済大国に躍り出ることがほぼ確実視される中、米国の中長期的な戦略は、あくまで中国の巨大市場から利益を得ることが主眼の「関与政策」であり、最近はそれにぐっと軸足を置いてきている。

4月初めのヘーゲル国防長官の3日間にも及ぶ訪中でも、米中の「新型大国間関係」をさらに発展させた「新型の軍同士の関係」を築くことで米中が一致。ヘーゲル国防長官が、現在の米中の軍事交流の拡大に前向きで高い評価を与えていることを示した。

こうした米国の姿勢に対して、安倍政権では尖閣諸島や2013年11月に中国側が一方的に宣言した防空識別圏(ADIZ)など、中国が主張するところの「核心的利益(コア・インタレスト)」の拡大に米国が譲歩してきているのではないか、との疑念が高まっていた。

そんな中での来日である。オバマ大統領にはこれまでより、一段階も二段階もレベルアップした強い中国けん制の言葉を期待していたのだが、完全に期待外れに終わった。

今、米国では政界だけでなく、学界でも中国との将来の関係を見据え、中国に大幅に譲歩するような論説が登場している。シカゴ大学の著名な教授である、ジョン・ミアシャイマー氏は、「台湾に別れを告げよう(Say Goodbye to Taiwan)」という論文をナショナル・インタレスト誌(2014年3~4月号)に寄稿。将来の緊密な米中関係を踏まえ、台湾が香港方式で中国本土に吸収されることが合理的な選択になる、と論じた。

ますます密接になる米中連携

日本科学未来館で子供たちを前に話をするオバマ大統領(内閣府広報室提供)

米中新時代の動きはかなり以前から起きている。

2004年に中国のパソコンメーカー・レノボ(聯想集団)がIBMのPC部門を買収。昨年9月には中国の食肉大手の双匯国際が、米豚肉生産大手のスミスフィールド・フーズを買収した。

つまり、パソコンでも食品でも農業でもこうした様々な業界での合併・買収を通じ、米中の経済分野での統合化や蜜月化はどんどんと進んできている。昨年の米中貿易額は初めて5000億ドル(51兆円)を突破した。

軍事関連分野でも、2011年1月には中国のステルス機J20(殲20)を開発した中国航空工業集団(AVIC)が米エアロスペース社と提携し、米海軍のヘリコプターや米空軍のジェット練習機の入札に参加することを『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』が報じた。2011年7月には実際に米空軍が中国傘下のシーラス・インダストリーズに練習機を発注するなど、密かに米中協力が進んでいる。

オバマ大統領に対中攻勢でブレーキをかけられた安倍首相。今後は好むと好まざるとにかかわらず、対中対話を重視したソフト路線へと舵を切ることになるだろう。

安倍首相は4月24日の日米首脳会談後の共同記者会見でも「中国については、法の支配に基づいて、自由で開かれたアジア太平地域を発展させ、そこに中国を関与させていくため連携していくことで合意した」「今後とも対中政策に関して、日米で緊密に連携していくことも確認した」と述べ、中国に対しては対決姿勢より関与政策に乗り出す考えを示した。

安倍首相からは今後、対中対話を積極的に目指す言葉や姿勢がさらに示されるはずだ。自国の防衛を米国に大きく頼っている以上、それはやむを得ない日本の現実なのである。

高橋 浩祐 米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

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たかはし こうすけ / Kosuke Takahashi

米外交・安全保障専門オンライン誌『ディプロマット』東京特派員。英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』前特派員。1993年3月慶応義塾大学経済学部卒、2003年12月米国コロンビア大学大学院でジャーナリズム、国際関係公共政策の修士号取得。ハフィントンポスト日本版編集長や日経CNBCコメンテーターなどを歴任。朝日新聞社、ブルームバーグ・ニューズ、 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、ロイター通信で記者や編集者を務めた経験を持つ。

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