「中国を武力攻撃するレッドラインはない」 明らかになった尖閣を巡るオバマ米大統領の真意
尖閣諸島をめぐるオバマ政権の従前通りの姿勢については、安倍政権の中枢や日本の保守層が批判をしてきた。
つまり、日米同盟が本当に揺るぎないものであるなら、米国は「尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用範囲内にある」などという婉曲的な言い方をせずに「尖閣諸島が攻撃占領されたら、米国は日本と一緒に戦う。日本を断固守る」と明確に言うべきだと。そのことが、中国に対する強烈な抑止力になるためだ。
なぜ米国はそう明確に言わないのだろうか。
そもそも米国の対日防衛義務を定めた日米安保条約第5条は、日本の施政下にある領域が武力攻撃を受けた場合でも、米軍がただちに100%、自動的に来援することを保障するものではない。この条文には「自国の憲法上の規定及び手続に従って」という制約が付されている。米国の憲法では、宣戦布告権や軍隊の編成権、歳出権などは連邦議会に属している。
中国軍が尖閣諸島を武力攻撃し占領した場合に、果たして連邦議会が米軍の出動を認めるだろうか。
米議会には、米国に多数の犠牲と財政負担を強いたイラク戦争やアフガニスタン戦争の二の舞を恐れ、シリア攻撃さえもためらった厭戦ムードが根強くはびこっている。そんな米議会がすんなりと、極東の小さな無人島のために米軍出動の権限行使を大統領に授けるかどうかについては、疑問符が付く。
尖閣問題をめぐる中国に対する米国の実際の武力行使の可能性について、日米首脳記者会見中に、オバマ大統領のかなり踏み込んだ、極めて重要な発言があった。
オバマ大統領への弱腰批判が強まったシリアやウクライナ情勢を引き合いにして、CNN記者が中国に対する軍事行動を開始するレッドライン(越えてはならない一線)について質問をした。それに対し、オバマ大統領は「日米安保条約は私が生まれる前からあり、これは私が引いたレッドラインではない」と発言、「日本の施政下にある領土がすべて安保条約の適用範囲に含まれているというこの標準的な解釈は、いくつもの政権が行ってきた。この立場に変化はない。そして、レッドラインは引かれていない。私たちはただ単に条約を適用している」と述べた。
英語での発言は、以下の通りだ。
この発言の後半部分の「レッドラインは引かれていない。私たちはただ単に条約を適用している」との部分を聞いた中国共産党の指導者や人民解放軍の幹部らはどう思うだろうか。おそらく、にんまりほくそ笑んでいるはずだ。
これこそが、尖閣をめぐる、もっとも重要な発言といえる。日本の主要メディアとは異なり、米国の『ワシントンタイムズ』やボイス・オブ・アメリカ(VOA)といった主要メディアは、「米国は尖閣問題では中国にはレッドラインを引いていない」とのオバマ大統領の発言を見出しにとって大きく報じている。
対中強硬姿勢の安倍首相に忠告
今回の日米会談で何より目立ったのが、対中強硬姿勢を続けてきたと欧米諸国からみられている安倍首相が、オバマ大統領に強く諌められたことだ。すなわち、安倍首相は、対中強硬姿勢から対話路線に転じるよう、強く促された。オバマ大統領に対し、中国へけん制をするよう求めていた安倍政権にとっては、極めて厳しい反応だった。
記者会見でオバマ大統領は尖閣問題について次のように述べた。日米をはじめとする記者を前にした会見で、安倍首相に強く物申したことが如実にわかる内容だ。
「安倍首相との議論において、私が強調したのは、この問題を平和的に解決するということの重要性だ。状況をエスカレートさせるのではなく、発言を抑制し続け、挑発的な行動を避けることだ。どのように日本と中国がお互いに協力をしていくことができるかを決めるべきだ。そして、より大局的な見方をすれば、私たちアメリカは、中国とも強い関係を保っている。中国はこの地域だけでなく、世界にとって非常に重要な国である。明らかなことだが、多くの人口を抱え、経済も成長している。私たちは中国が平和的に台頭することを引き続き、奨励する。中国とは、貿易や開発、気候変動といった共通の課題で多大な好機が存在している」
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