「巨大トンネル建設」を撮った写真家が見たもの トンネル作りの作業は「掘る」だけではない

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行くたびに工程が進んでて、この前覆ってた防水シートがもうなくなってる、次は鉄筋が組まれてる、今度はコンクリートポンプ車が入ってる、というように毎回違う光景なんです。この防水シートはもう一生撮れないんだと思って、絶対撮り残さないようにと、まるでわが子のような気持ちで撮っていました。

そして何より皆さんの背中がかっこいいなと。本来なら、ガーッと作業してる顔を撮りたいんだけど、回り込めないし危ないからできない。それで、トンネルに懸ける皆さんの気迫というか、戦の鎧(よろい)を着て岩肌に挑んでる背中を懸命に追いかけました。

時系列で、30代半ばの現場監督さんの写真を要所要所に入れてるんですけど、写真集で見た人は同一人物だと誰も気づいてくれない。最初あのぽっちゃりしてかわいかった彼が、2年余りでシュッとして、無精ひげを生やした別人になってるという(笑)。

この先の世界を想像させられる写真で終わりたかった

──そして最後の写真。万歳三唱でも笑顔の記念写真でもない、予想外の1枚にジワッときました。

トンネル本体の工事が終わって、最後の最後、トンネル名を刻んだ銘板を取り付けた後のシーンです。これが本当に最後の皆さんの後ろ姿。ここから道路を舗装する次のステージに進み、実際に車が行き交うようになるまで、まだつながっていくというのを1枚の写真に全部閉じ込めたいと思いました。この先の世界を想像させる写真で終わりたいなと。

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──これほど七変化に彩られた世界だとは想像していませんでした。

すべてトンネルの中に入って自分が体感したこと。撮影中は一記録者に徹しました。

休憩中にカメラを向けると、あれほど厳しい顔で機械を操作していたおじさんが、エヘヘって表情を崩す、そのギャップもよかった。私たちが普段目にしない、陰で働いてくれてる人たちというんでしょうか。道路工事や除雪や自然災害が起こったときなど、私たちが寝ている間に地域の建設業者さんがかけがえのない仕事をされている。そんな皆さんの笑顔はすごくすてきです。でも今回はあえてそこじゃなく、トンネルができるまでという枠の中で、戦うストーリーを完成させようと決めて撮りました。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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