「巨大トンネル建設」を撮った写真家が見たもの トンネル作りの作業は「掘る」だけではない

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山の神様に掘ることのお許しを請い、工事の安全を願う儀式が行われることを、実はそれまで知りませんでした。山の神は女性で、人間の女性が入ると嫉妬して必ず事故が起きる。だから女性は入ってはいけないという時代が近年まであったそうです。

トンネルに入るというのはすごく大変なこと。気を引き締めて、1枚1枚大事に撮らなきゃいけないって思いにさせられた。安全祈願の場面なしに、「トンネル掘削、いざ出陣!」で威勢よく始まるのは、ちょっと違うんじゃないかなと思いました。

「貫通」は作業の前半に過ぎない

──つまり“当事者”になられた。

そうです。本当に私が入ってもいいのかな、という戸惑いがすごくあったんです。安全祈願祭の日は雨がポツポツ降っていて、「さあ、皆さんで祈ります」というときに、パーッと光が差した。「これでやっと受け入れてもらった」と思いました。トンネルに入る際はいつも心の中で「今日も入らせていただきます」とつぶやいて入りました。事故でも起こしたら、皆さんに迷惑を掛けるので。

山崎 エリナ/神戸市出身。1995年に渡仏、独学で写真を勉強しパリを拠点に3年間活動。40か国以上で撮影し、エッセイを執筆。ポーランドの美術館に作品収蔵。作品集は他に『インフラメンテナンス』『Civil Engineers 土木の肖像』など。新型コロナで延期になったパリでの写真展は2021年3月に開催予定。(撮影:大澤 誠)

──単純に、トンネル=掘る、のイメージでしたが、この写真集の中で貫通までは前半にすぎない。

コンクリートを吹き付けながら掘り進み、ついに岩盤の向こうから光が差し込む。貫通すると山の神様に感謝し、お清めをする。坑内に万歳の声がこだまします。そして次のステージが待っている。完成後の水漏れを防ぐため防水シートを張るのですが、その白いシートが照明のせいで黄金色に輝いて、幻想的な世界が出現します。

ドリルや重機が作動してる工事中はまさに轟音なんですけど、皆さんが休憩に入って、私1人になる瞬間があるんです。明かりも半分消えて、シーンと張りつめた空間にポツンとたたずんでいると、安心感というか、まるでお母さんの中にいるような感覚にとらわれました。まだ未舗装なので地面の土はぬめっとしてて、そこにあるキャタピラーの跡から、まるで恐竜がペタッペタッと歩く世界に迷い込んだような感じも。たった1人取り残されたトンネル空間の心地よさを何度も味わいました。

──約1年半、計十数回、現場に足を運ばれたんですね。

次ページ予想外の「最後の1枚」に込められた意味
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