敷金が「多く戻る人」「全く戻らない人」の大差 覚えておきたい「原状回復のボーダーライン」

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──菊地先生スゴい! じゃあ今回の法改正で敷金控除や原状回復義務のルールが明確になったんですね。

菊地幸夫弁護士(写真:「OCEANS」編集部)

菊地:通常の使用による損耗や経年劣化は賃借人の責任ではないと明記されました。わかりやすくするために下の「改正ポイント①」で原状回復義務の範囲を紹介します。ご覧のように例が8項目あるのですが、このうちカッコ内に「通常の使用方法」とあるものは大家さん負担となります。Aさんがトラブルになっている「家具下の床のへこみ」「鍵の取り換え」はいずれも通常の使用方法に当たるので、大家さん負担です。

【改正ポイント①原状回復義務の範囲】

通常の使用方法
1.家具下の床のへこみ
2.冷蔵庫後ろ壁面の黒ずみ
3.ポスター、カレンダーの画びょう跡
4.エアコン取付のビス跡

通常使用による汚損を超える
5.タバコのヤニによる汚れ

通常使用を超える
6.既存の照明用コンセント以外に賃借人が天井に取り付けた照明器具の跡

賃貸人負担
7.鍵の取り換え

賃借人の善管注意義務違反
8.引っ越し作業の傷

拡大解釈で多く敷金を取られる可能性も!

──なるほど! この原状回復義務の範囲さえ把握しておけばもう敷金トラブルに悩まされることなさそうです。

菊地:安心するのはまだ早いですよ。気をつけなければいけないのは原状回復義務範囲のボーダーラインです。例えば、ポスターやカレンダーの画びょう跡は借り主の負担になりませんが、コート掛けを設置するために壁にネジなどで穴を開ければ「画びょう跡」とはいえず、「通常使用を超える」と判断される可能性もあります。

──確かに、画びょう跡とネジで作った穴とでは全然違いますよね。なんだかほかにもありそうな気が……。

菊地:「既存の照明用コンセント以外に賃借人が天井に取り付けた照明器具の跡」というのも注意したほうがいいでしょう。これはもともと部屋にある照明の取り付け金具ではなく、借り主が自分の好みの照明を取り付けたことで生じた金具の跡という意味です。この点についてガイドラインは「通常使用を超える」としている。つまり借り主が原状回復費用を負担する必要があります。

──原状回復義務が明確になったからといって恣意的な解釈をしてしまうと、思わぬ落とし穴にハマりそう。

菊地:「通常の使用方法」とは、誰が借りても同じように劣化したり汚れたりするということです。そういう意味でいうと、ペット可の物件だったとしても、猫が爪をといで壁紙が剥がれたりすれば原状回復費用の負担義務が生じるでしょう。通常を超えた異臭が部屋につけば、クロスの張り替え費用まで負担しなければならない可能性があります。

──法改正がされたからと言って油断せず、節度と常識を持って綺麗に保つのがいちばんですね。気をつけます!

【改正ポイント②】
・基準が明確になってもボーダーラインには注意

(沼澤典史=取材・文 石井あかね=イラスト)

【教えてくれた人】
菊地幸夫(きくち ゆきお) 弁護士中央大学法学部卒業。番町法律事務所。元司法研修所刑事弁護教官。社会福祉法人練馬区社会福祉事業団理事も務める。また、日本テレビ『行列のできる法律相談所』および『スッキリ』をはじめ、数本の番組にレギュラーとして出演。
HP:http://bancho-lawoffice.com/
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