敷金が「多く戻る人」「全く戻らない人」の大差 覚えておきたい「原状回復のボーダーライン」
民法が120年ぶりの大改正を迎えた。遠い存在に感じる法改正だが、僕らの暮らしに与える影響は大きく、知っておかないと困ることも多いのをご存じだろうか?
そこで、具体的なシチュエーションを例に挙げ、『スッキリ』『行列のできる法律相談所』などでおなじみの菊地幸夫弁護士の解説で民法改正のポイントを紹介。
今回は「敷金が多く取られていたら……」。まさかの事態に陥ったとき、法改正の内容を知らないと損してしまうかも?
【Case Study】原状回復義務はどこまである?
Aさんは最近、1年間住んでいたマンションから引っ越した。しかし、マンションの大家さんは「家具下の床のへこみ」は経年劣化に当たらないと言い、「鍵の取り換え」の費用負担もAさんに要求。その分のお金が返還されるはずだった敷金から引かれ、減額されてしまった。納得のいかないAさんは大家さんと話し合いを続けるが……。借り主の原状回復義務の範囲はどの辺りにあるのか?
──ちょうど僕の友達も敷金で大家さんともめているんですよ! 退去時に敷金が大幅に減額されたり返ってこなかったりという話をよく聞きますけど、菊地先生、なんで敷金ってトラブルになりがちなんですか?
菊地:敷金についての判例は出ていたんですが、従来の民法には敷金の基準を定めた法律がありませんでした。原状回復義務の範囲にもガイドラインがあったのですが、それを守らない大家さんが少なくなかったんですね。そのため、トラブルになるケースが出てきたものと考えられます。
──2年も住んでいれば部屋のあちこちが経年劣化しますよね。この経年劣化の判断も大家さんのさじ加減ひとつで決まり、原状回復費用が多く取られることがありえたということ? 泣き寝入りするしかないじゃないですか!
菊地:残念ながら、従来は多くの借り主がそうでした。たとえ敷金返還の裁判を起こしても、返ってくる見込みのあるお金が家賃1カ月分程度と少額なので、裁判費用を差し引くと赤字になってしまう。大家さん側も「どうぞ裁判を起こしてください」というスタンスでした。
もっとも、私は敷金について話し合うために依頼主と大家さんのところへ行ったことがあるのですが、すると大家さんが「本当に弁護士が来た」と驚き、少々嫌そうな顔をしつつその場で敷金を払ってくれたことがあります。